今日はヴァレンタインデイ。

毎年の事ながら、今年も十番隊執務室はチョコレートの山がいくつも築かれていた。

「…こんな状態じゃ、今日は仕事にならねぇ。」

朝からひっきりなしに持ってこられる日番谷・松本・宛てへのチョコレート。
途絶える事無く続くこの状況に、日番谷は既に諦めの境地に入っていた。

「仕方ないですよ。隊長、人気あるんですから。」

そんな日番谷を尻目に、松本は男性隊士から貰ったチョコをおいしそうに頬張っている。

「……松本。……お前、仕事しろよ。」

大きな溜息を吐く日番谷。
その眉間には深い皺が刻まれている。

「仕事にならねぇ。って言ったのは隊長じゃないですか。」

松本は、その日番谷の言葉を以外と言わんばかりの表情で言い返す。

「………仕事ができねぇとは言ってねぇぞ?」

少し間を置いての日番谷の返しに、えー。と不満げな声を漏らす松本。
そんな松本の態度に日番谷は眉間の皺を更に深くした。

「えー。じゃ、ねぇ!!」

どん。と自身の机を叩く。
その振動で、日番谷の近くに積まれていたチョコレートの山が雪崩を起こした。

「うわっ!」
「隊長っ!!」

驚きの声を上げる日番谷にが慌てて駆け寄った。

「…だ、大丈夫ですか?隊長。」

チョコを拾い上げながら、声を掛ける。

「ああ。大丈夫だ。…悪いな。。」

自分もしゃがみ込み、チョコを拾い上げながら、に声を掛ける。

「…いえ。」

「あー。もう、隊長。机なんか叩くから雪崩が起きたじゃないですかぁー。」

その様子を黙ってみていた松本だが、しばらくして椅子から腰を上げた。
そして、自分も屈み込むと、チョコの雪崩を引き起こした日番谷への文句は忘れる事無く告げ、チョコを拾うのを手伝い始めた。

「誰のせいだっ!誰の!!」

「隊長でしょ?」
「お前だろーがっ!!」
「ええー?私のせいですかぁ?」

いつしかチョコを拾い上げる手が止まり、更なる口戦を続ける日番谷と松本。



二人が口戦を続けている間も、
一人で黙々とチョコを拾い続けていたが、ようやく二人の口戦に歯止めをかける一言を放った。

「…隊長も、乱菊さんも。…口、動かす前にチョコ拾いません?」

ニコリと微笑みながら告げるだが、その微笑を見た二人は一瞬、氷ついた。


は微笑んではいたが、目が笑ってなかったのだ。
四番隊・卯ノ花の微笑にも似たその笑みに、二人はの怒りが生半可なものでないことに気付く。

「……だ、な。」
「……そ、そうね。」


それから、しばらく執務室には沈黙が続いた。
三人で黙々とチョコを拾い続ける。



「それにしても今年は一段とすごいですね。」

その沈黙を破ったのは、以外にもだった。
は、雪崩が起きたそのチョコの山を整理しながら感嘆の声を出す。

「何、他人事のように言ってるのよ。三分の一は宛じゃない。」

チョコの山を指差しながら、言った松本のその言葉に日番谷の眉間の皺がより一層深くなる。

「…あら?隊長。焼きもちですか?」

そんな日番谷の様子を松本が見逃すわけがなく、からかおうと声を掛けるが、
日番谷から返ってきた意外な言葉に目を瞠った。

「……悪いか。」
「……へ?」

「…俺が、焼きもち焼いて悪いか?って聞いてんだよ。」

どこか、開き直りとも取れるその日番谷の態度に松本はただ、面食らうばかりだ。

「……いえ。……その、別に悪いとは………って、珍しいですね。」

素直に認めるなんて。

「………………。」

驚きに目を瞠っている松本に対し、話の中心にされているはただ、無言。


そんなの様子をチラリと盗み見た松本は何かを理解したのか、あ。と小さく声を漏らす。

「……ははーん。」
「なんだよ。」
「…なんですか?」

口元に笑みを浮かべた、松本の様子に、日番谷とが少し構えた様子で言葉を発する。



「…。」
「…はい。」
「………んふふふ。」

何かを企んだような微笑にの顔が僅かに引きつりを見せた。
すすすす。と音もなく松本がにちかづくと、何かを耳元で告げた。

「っ!ら、乱菊さんっ!!」

耳元で囁かれた松本の言葉にの頬が僅かに朱に染まる。

「んふふふ。…たぁーいちょ。」
「…な、…なんだよ。」

くるりと振り向いた松本の笑みに、日番谷が身構える。

「私、九番隊にいってきまーす。」
「は?!…おい、こらっ!松本!!」

松本の言葉に反応するも、一足遅く、松本は執務室から、出て行った後だった。

「…おいっ!松本っ!!……くそっ。……なんなんだ。……って、どうした??」

振り返った日番谷が見たものは、頬を朱に染めた

「…え。…あ。……いえ。」
「ちょっと、待てって。」

言葉を濁し、慌てて自分の席に戻ろうとするの腕を掴みそれを阻止する日番谷。

「…なに、言われたんだ?」
「…別に。…何も。」

真っ直ぐにを見つめ、問いかけるが、その日番谷の視線から目を逸らし、言葉を再び濁す。
腕は、未だ日番谷に捕まれたまま。

「………。」

名前を呼ばれたことで、の体が、ピクリと動く。

「……何を、言われたんだ?松本に?」

腕を引き寄せたことにより、が数歩日番谷の元へ近づく。




しばらくの沈黙の後、が口を開いた。

「あの。えっと。…とりあえず、腕、離してもらっても、良いですか?」
「答えるまでは離さねぇ。」
「…答える為にも離して欲しいって言ってもですか?」

その言葉に、日番谷はの腕をしぶしぶながらも離した。


腕を離されたことにより、は自分の机へと戻ると、引き出しから、包みを出し日番谷の元へと持ってきた。

「えっと、お口に合うかどうかわかりませんが………。」

目の前に出されたのは、自隊の隊花である水仙を飾った一つの包み。

「………。」

勿論、日番谷はその中身がなんであるか、すぐにわかったが、それを受け取ろうとはしなかった。

「………隊長?」

一向に受け取ってくれようとしない日番谷に不安になる。

「…気にいらねぇな。」
「…え。」

小さく呟かれた言葉に、の体が強張った。

「…お前は、俺の何、なんだよ?」
「…………へ?」

日番谷の言葉の真意がわからず、戸惑う

「ったく。」

そんなの様子に、日番谷はガシガシと頭を掻く。

「……お前は、俺の恋人なんだから、そんな部下が上司に渡すような態度で渡すなよ?」

日番谷の言葉に一瞬、目を瞠ったが、すぐに笑みを浮かべると

「……じゃぁ。改めて。
 甘さ控えめに作ってみたの。よかったら食べてもらえるかな?」

そう言って、チョコを差し出す。

「…おう。さんきゅ。」

ようやく、チョコを受け取った日番谷の顔には笑みが浮かんでいた。

早速とばかりにから受け取ったチョコの包みを開ける日番谷。

「ちょ、冬獅郎。」
「……うまい。」

のチョコを一つ頬張った日番谷がそう漏らす。

「…ほんと?…よかった。」

日番谷の感想にほっと溜息を吐くに日番谷が尋ねてきた。

「で?…松本には、なんて言われたんだよ?」
「…ああ。それですか。」

苦笑を浮かべながらも、は松本に言われた言葉をそのまま日番谷に伝えた。

「…あのやろー。」

から聞いた言葉に、日番谷は苦笑を浮かべながらそう呟く。

「やっぱり、乱菊さんには敵いませんね。」
「……ある意味、敵わねぇな。」

そう言って、二人は顔を見合わせ微笑んだ。





――― 隊長が焼きもちやくから、これ以上、はチョコは受け取っちゃダメよ。
 それと、とっとと、隊長の為に作ってきたチョコ渡しちゃいなさい。……それで機嫌は直るから。







……遅ればせながらのVD夢です。って、これ、夢になってない気が(汗)

今の私の精一杯です。…すみません。
あ。わかっていただけていると思いますが、
最後の台詞は乱菊がヒロインに耳打ちした台詞です。

全てお見通しの乱菊さんです(苦笑)