「……五席、です。」

仕上げた書類を手に、は執務室にいる日番谷に入室の許可を貰う為、声を掛ける。

「…ああ。か。……入れ。」

すると、いつものように中から日番谷の声が返って来た。

「失礼致します。」

扉を開け、は執務室へと入っていった。






レンズの







「…………。」

声はすれど、姿が見えず………。
それほど、日番谷の机の上には、書類とその書類の為の資料がうず高く積み上げられていた。


そのあまりの書類の多さには思わず絶句する。


十番隊は書類業務もかなりの量を誇ってはいるが、今回のこの量は半端なものではなかった。

一体、何処が溜め込んでいたんだろうか………
そんな事を思いながらふと、副官の乱菊の机を見ると、無人と化した乱菊の机にもうず高く書類が積まれていた。

「………………。」

副官が行方不明。


執務室にうず高く詰まれた書類の山。


「……えっと、隊長。」

恐る恐る声を掛けると、

「……ああ?…どうした?」

案の定、少し不機嫌そうな声が返っていた。
それでも、思っていることを口にする。

「乱菊さんは?。」
「………八番隊に書類持ってったきり、戻ってきやがらねぇ。…クソっ!あの資料、どこ行きやがった?!」

ガサガサと机の上の資料を引っかき回す日番谷。

「……えっと、隊長。」
 
見かねたが日番谷に声を掛ける。

「……なんだ?その書類、急ぎか?」

声だけが聞こえる状態で、日番谷が問いかけてきた。
当の本人は、書類の山で姿が見えない。

「……いえ。そういう訳では………。」
「…なら、そこに置いておけ、後で見ておく。……クソっ!見あたらねぇ」

ガサガサと書類を捜す日番谷。

「……なんの資料ですか?」
「あ?…あー。二ヶ月前の西流魂街に大量発生した虚の……」

の質問に答えながらも手を動かし、資料を探し続ける日番谷。
この様子ではきっと、朝からずっとこの状態が続いているんだろう………。

「二ヶ月前の虚の資料ですね。」
「…ん?ああ、…って、?」

ガサガサと資料を探しに掛かるを見て、日番谷が驚きの声を上げる。

「手伝います。」

そう言って、散らばった資料に手を掛け、日番谷が探している資料を探しに掛かる

「お前、自分の仕事は………。」
「持ってきたこの書類で最後です。ですから、気になさらないで下さい。」

そう言って、資料探しを続ける

「………ワリィ。」
「……なにが、ですか?」

日番谷の謝る声が聞こえてきたので、が顔を上げる。
相変わらず、書類の山で日番谷の顔は見えないが、声の感じから言って、バツが悪そうな顔をしているのだろう。

「どうして、隊長が謝るんですか?」
「いや、ちょっと、八つ当たりに近い態度、取っちまっただろ?」

日番谷が、ガシガシと頭を掻く手だけが書類の端から見て取れた。

「この、書類の山と、乱菊さんが姿を消している事を思えば、当然ですよ。」

クスリ。と、笑みを漏らしながらも、の手は日番谷が探している資料を探し続ける。

「……あ。」
「あ?」
「ありましたよ。二ヶ月前の虚の資料………。」

手に取り、日番谷の元へと持っていく。

「あー。んなトコにあったのかよ。…ありがとう。助かった。………ん?どした?」

から書類を受け取った日番谷だが、の様子がおかしい事に気付いた。

「……?」

顔をあげ、に呼びかけるが、当の本人は不思議そうな顔で日番谷を見ているだけで、一向に反応を示さない。

「……どうした?……おい。……。」

勤務中は、滅多に呼ばない名前で日番谷がを呼ぶ。

「…へ?……あ。……な、なに?」

名前を呼ばれたことで、がようやく反応を見せる。

「……なに、じゃねぇ。なに、不思議そうに人の顔、眺めてんだよ?」

筆を置き、の方へ顔を向けると、日番谷がそう、尋ねてきた。

「……なんか、俺の顔についてるか?」
「あ。…いやっ。…じゃ、ない。……いいえ。隊長の眼鏡かけてる姿なんて、初めて見たものですから………。」

一瞬、言葉使いが部下のものではなくなるが、それに気付いたが慌てて言い直す。

そうか?
と、言ってかけている眼鏡に手をかける日番谷。

「……可笑しいか?」

次にかけられた言葉は、そんな問いかけ。

「……へ?」
「……あ。……いや。俺が眼鏡、かけてると可笑しいか?って、聞いてんだよ。」
「いえっ。全然っ!可笑しくなんかないです!!」

――― むしろ、似合ってます。


そう言いかけた言葉は飲み込む。 

「……でも、どうして眼鏡かけているんですか?……隊長って、目、悪いんですか?」

そんなはずは、ないはず。
そう、思いいながらも、がそんな疑問を日番谷に投げかける。

「いや、目は悪くねぇ。」

じゃぁ。どうして?
と、の視線が問いかけてくる。
そんなの姿に苦笑しながらも

「…最近、書類の整理に追われていたからな。……目が疲れてきてるんだろうな。
 ちょっと、字が霞むんだよ。眼鏡がねぇと。」

と、正直に告げる。

「……だったら、お休みになられた方が………」
「そうも、いかねぇだろ?」

でも。 と、が口ごもる。

そして、辺りを見回し、ふぅ。と小さく溜息をついた。

「……隊長。今日、休憩取られましたか?」

凛とした声が日番谷に掛けられる。

「……ん。……まぁ、少しは、な。」

そんな日番谷の態度には再び溜息をついた。

「……取られてないんですね。」
「…………。」

「……全く。いつもそう、隊長はそうやってすぐに根を詰めるんですよね。」

そう言って、は何度目かの溜息を付く。

「……はい、隊長は今から休憩時間です。」
「……お前、この書類の山見てそんな事、言ってんのか?」

今度は、日番谷が溜息を付く。

「どうせ、どっかの隊が書類を溜め込んだせいでこうなっているんです。
 すこしくらい、遅れても構いませんよ。……多分。」
「……お前な………。」

どこかの副官のような発言に日番谷は軽い眩暈を覚えた。



何度かやり取りを続けるが、日番谷は一向に休もうとしない。
そうしてているうちに、とうとうは押し黙ってしまった。


「…………。」
「…?」

どうした?
急に俯き、黙ってしまったに日番谷が声を掛ける。

「……ら。………私………。」
「ん?」

切れ切れに聞こえてくる言葉。


「………冬獅郎が倒れたら………私、……それこそ心配で……。」

最後の方は、本当に小さな声でがそう、呟いた。



「…………少し、休ませて貰うか。」

から呟かれた言葉は、部下としてではなく、恋人としての言葉。
勤務中には決して、そういった感情を持ち込まなかったはずの恋人が、
その感情を持ち出してきた事に、不謹慎に思いながらも、日番谷は込み上げてくる感情を隠しきれず、思わず口角を上げてしまう。

「じゃ、私。お茶、入れてきます。」

日番谷の『休む』の言葉には、ぱっと、顔を上げほっとしたように微笑む。

「……ああ。頼む。」

パタパタと、給湯室へと走っていくの背中に日番谷は苦笑と共に、そう呟いた。





「隊長。どうぞ。」

コトリ。と、お茶がソファへと腰を掛けていた日番谷の元へと置かれる。

「…ん。」

置かれた湯飲みを手に取る。
その、温かさに日番谷は人知れず、ふぅ。と溜息をついた。

「………お前も、座ったらどうだ?」

乱菊の机に置かれている書類を片付けようとしているに日番谷が声を掛ける。

「……でも。………。」
「…隊長命令。」
「………はい。」

言いよどむに、ぴしゃりと言い放つ。
その言い草に、クスリと微笑むと、書類を置き、日番谷のいるソファーへと歩み寄って来た。

「……なんで、そっちに座るんだよ?」
「…え?」

が座ろうとしたのは、日番谷の向かいの席。
そんなに、日番谷はこちらに座れとばかりに、自分の隣をポスンと、叩く。

「…えっと。………。」

幾分、戸惑いを見せるに、

「……今は休憩時間なんだろ?」

日番谷のレンズの奥から覗く翡翠の瞳が、部下としての対応を望んでいない事を物語っている。

「…………じゃぁ。………。」

日番谷の向いの席から、横へと移動してきたが遠慮がちに横に座る。

「……何、緊張してんだよ?」
「……あー。いえ。別に………。」
「……敬語。」

ポツリ。と、呟かれた言葉。

「え?」
「…敬語、やめろ。今は、休憩時間なんだろ?」

聞きなおすと、そんな言葉が返って来た。

「…………。冬獅郎って…………。」
「………なんだよ。」
「………なんでもない。」

隣に座れ。と、言ってきた時点で、何となくわかってはいたが、こうも強調されるとかえって可笑しくてたまらない。

クスクスと、笑っていると、不意に、近づく気配に顔を上げると、唇を何かが、掠める感触を感じた。

それが日番谷の唇だとわかったのは、やけに近く感じた彼の翡翠の瞳と、
離れていく際に、微かに聞こえた、ちゅ。と、いう音で………。

「……っ。と、冬獅郎?!………な、な、な、な………」

は、いきなりの事にただ、口をパクパクさせるだけ。
言葉を紡ごうとするが、次の言葉が紡ぎだせずにいた。

その間に、日番谷は二人の間にある間隔を縮めようと近づいて来る。

「な、何、考えてんのよ?!」
「何って。」

近づいて来る日番谷を、必死に腕をつっぱって、それ以上近づいて来ない様に試みるが、
所詮、隊長と、五席。力の差は歴然。
敵うわけがない。

「……冬獅郎?」
「……休憩、時間。なんだろ?」

何かといえば、『休憩時間』と、言う日番谷に、はただ、唖然とするしかない。

「休憩時間だからって、なんで、こういう事するわけ?!」
「………充電。」
「……はい?!」

今、なんて、言ったの?

聞きなおそうとするに近づいて来る気配。



「ちょっ。………っん。」

気付いた時には、腰に手を回され、逃げられない状態に。
降ってきたのは、深い口付け。
そのあまりに深い口付けには思わず、日番谷の羽織をギュッと握り締めた。




「……っ。……はっ。」

ようやく離された頃、かちゃり。という音が聞こえ、顔を上げる。
その口付けを仕掛けた本人は、苦笑を漏らしながら、眼鏡を外していた。

「……冬獅郎?」

荒い息のまま、呼びかける。


「……やっぱり、邪魔だな。」
「………?」

日番谷の呟きにが首を傾げる。

視線が絡み合い、告げられた言葉は……………





――― こういう、深いキスの時、眼鏡は邪魔だな。






ようやく戻って来た乱菊が顔を真っ赤にさせていると、
肩を震わせ、笑いを堪えているという、上司の珍しい姿を見ることになるのは、もう少し、後の事。







……隊長の眼鏡姿を想像したら、思い浮かんだ妄想話。

冬獅郎って、絶対、眼鏡似合う気がするんですよv
一度、原作でもお目に掛かりたい物ですvv
萌える事、間違いなしですv


しかし、……この話の隊長。偽者ですね(汗) ……すみません。