大好きな キモチ
「おはようございます。」
が執務室に入ると、もう既に日番谷は仕事を始めていた。
思わず遅れてしまったのかと、は慌てて壁にある時計に目をやった。
「遅れちゃいねぇよ。俺が早く来た。…それだけのことだ。」
資料をみていたはずの日番谷から掛けられた声。
勢いよく振り向くと、苦笑交じりの日番谷と視線が絡み合った。
「…首。…折れるぞ。」
ククク。
そんな笑い声と共に掛けられた言葉。
「…冬獅郎。…昨日帰ってないでしょ?」
時間を確認し、まだ始業時間ではないことを確認したが、部下ではない言葉遣いで話しかけた。
「………。」
「無言は肯定。」
の質問に、無言のまま、仕事を続ける日番谷。
「仕方ねぇだろうが。こんなに溜まっているんだぞ?!」
日番谷の指し示す先には、書類の山。
「…コレだけ溜まっちまった理由は今回、俺も関係してるんだ。…サボるわけにはいかねぇだろう?」
「………。」
日番谷の言わんとしていることがわかり、今度はが黙り込んでしまう。
「お前は何も悪くねぇだろう?…ただ、俺についてきた。それだけだ。」
「…押しかけ状態でだけどね。」
そういうと、は始業時間になっても現れない、乱菊の机の上に摘んである資料を自身の机へと運んだ。
「…あんまり、松本を甘やかすなよ?」
「…今回は、特別です。」
そう言って、筆をとり、仕事に取り掛かる。
「…今回だけだぞ。」
「わかってます。」
のその言葉を最後に二人は仕事へと取り掛かった。
しばらくした時だった。
が、霊圧を感じその顔を上げる。
日番谷も霊圧を感じとったのだろう。資料に向けていたその顔を上げる。
その霊圧の持ち主に日番谷は大きく溜息を、は苦笑を浮かべたときだった
勢いよく、執務室の扉が開かれ今まで姿を見せなかった副官が姿を現した。
「おはよーございまーす。…って、あら?朝からなに、見つめ合っちゃってるんですか?」
「……乱菊さん。……おはようございます。」
反応を見せれば、よりからかわれるだけという事を悟ったは
必死に冷静さを保ちつつ、挨拶を交わす。
チラリと日番谷を見ると、眉間に皺が寄っていた。
「……松本。」
怒りを抑えた声で日番谷が乱菊を呼ぶ。
「はい。…なんでしょうか?隊長?」
口に何かを頬張りながら答える乱菊の姿にますます日番谷の眉間の皺は深くなる。
「…なにか、言うことは、ないか?」
言葉を区切りながら質問する日番谷の手は微かに震えている。
どうやら、そうとうお怒りの様子だ。
の額に冷たい汗が流れ落ちる。
「何も無いですけど??」
答える乱菊に声を落とした日番谷が訪ねる。
「…今、…何時だ?」
日番谷の質問に乱菊が時計を見る。
「9時30分です。」
ヘー然と答える乱菊に日番谷の怒りが爆発する。
「時間を聞いてんじゃねぇーよ!」
「えー。今、何時だって聞いたじゃないですかぁー。」
「そうじゃねーだろう!!始業時間からどれだけ経ってると思ってやがるっ!!」
「一時間くらい?」
いつもの事だが、いつもの言い合いが始まった。
(……冬獅郎も流しちゃえばいいのに………。)
真面目な日番谷だからこそ、そんな事ができない事はわかってはいるが
いつもああやって真面目に怒るから、乱菊は面白がって、わざとああいう答え方をする。
それにこれまた、日番谷は真面目に怒ってしまうからきりがない。
「……そろそろ、止めません?」
肩で息をしている日番谷にが声を掛ける。
「…お前がそうやっていつも甘やかすから松本の遅刻が直らねぇんだ!」
「…そうかも知れませんけど。……隊長がそうやって本気で怒るから乱菊さん面白がっちゃうんですよ。……あ。」
思わず口に出してしまった事が不味いことだと気付くが既に遅し。
「…ほぉ〜。……面白がってたって訳か。」
「えっとーですねー。そういうわけじゃなくーー。」
何とか取り繕うとするが、気持ちが焦るばかりで何も思いつかない。
ピクピクと眉を引きつらせる日番谷に、執務室の二人はひ汗が背中に流れるのを感じた。
そして、次に来る衝撃に備える。
「まぁ〜つもとぉぉぉぉぉぉっ!!
ふざけてねぇーで。ちゃんと仕事しやがれっ!!」
怒鳴り声が執務室に響きわたり、びりびりと窓が揺れる。
「なーんで私だけ怒るんですかー。ひいきだ。ひいきだ。」
「やかましいっ!!は仕事サボってねぇだろうがっ!!」
どん!
と、机を叩き、声を荒げる日番谷。
その振動でかは定かではないが
乱菊が持ってきて机においていたものがドサドサと床へ転がり落ちた。
「あー。隊長。何するんですかぁー。」
乱菊が慌ててそれらを拾い上げていく。
「…………。」
これ以上言っても同じだと悟ったのか、日番谷は盛大な為息をつくと再び仕事へと取り掛かった。
はというと、落ちて散らばったものを拾い上げている乱菊の傍によりそれらを拾い上げるのを手伝いはじめた。
「ありがと。。」
「どういたしまして。……って、乱菊さん。コレって。」
拾い上げたものを見たが乱菊にそれを見せる。
「…チョコレートよ。…知ってるでしょ?今日はバレンタインディよ」
さも、当たり前のように答える乱菊には戸惑いを隠せない。
「……チョコレートは知ってますし、今日がバレンタインって事も知ってます。」
「…じゃぁなんで聞くのよ?」
呆れ顔で聞いてくる乱菊に、は更に続けた。
「…だって、なんでそのチョコ食べてるんですか?!…あげるんじゃないんですか?!」
渡すために持ってきているんだとばかり思っていたは驚きを隠せずにいる。
「わたしがぁ?…誰に?…貰いはするけど、あげたりはしないわよ?…第一、今年、現世では逆チョコってのが流行ってるのよ。」
「…逆。チョコ??」
聞きなれない言葉には瞳を白黒させる。
「そ、逆チョコ。男性から女性に渡すのよ。今年はそれが流行り」
「………。」
「…てめぇはいつも貰う専門だろうが。」
は無言。
日番谷は溜息混じりに。
「あら。隊長不安ですか?」
「…なんでそうなる。」
「だって、逆チョコの話、聞いた途端に話に加わってくるんですもの。が、他の男性隊員からチョコ貰うんじゃないかって、不安なんでしょう?」
目元に笑いが含まれた表情に日番谷は顔を引きつらせる。
「…乱菊さんっ!!」
が慌てて止めるが、乱菊はお構いなしだ。
「あら。だって、イベントというイベントをなーーんにも覚えてない彼氏って寂しいと思わないの?」
クルリと振り向き、に問いかける。
「イベントもの。覚えてないのが冬獅郎だと思うし。…私が覚えていればいいんです。」
そんな乱菊の問いかけに、はそう言ってニコリと微笑んだ。
「あーーもうっ!!は健気なんだからーー。」
そう言うと、乱菊はをぎゅうっと抱きしめた。
「…っ。…乱菊さん。……く、くるしぃっ。……。」
「あら。ごめんなさい。」
乱菊がをその腕から解放すると、チラリと日番谷を見やる。
バツが悪そうにあさっての方を見ている日番谷に乱菊はクスリと微笑むと、
「それじゃー。私は逆チョコ貰いに行ってきますねー。」
そういうと、執務室から出て行った。
「…おい、こらっ!松本っ!!」
ガタリと席を立ち、急いで呼び止めるが、乱菊の姿はもう、そこには無かった。
「……ったく。」
「…乱菊さん。気を使ってくれたんですよ。」
溜息をつき、席に着く日番谷に、が微笑みながら答える。
「なにに気を使ったんだ!なににっ!!」
出口を指差し、怒鳴る日番谷に、は用意してきたものを日番谷へ差し出した。
「はい。冬獅郎。」
差し出されたのはチョコレート。
「………。」
それを見て、日番谷は黙り込む。
「…乱菊さんがいたらやっぱり、…渡しづらいですよ。」
のその言葉に日番谷は、ああ。と小さく呟いた。
「……さんきゅ。」
そして、差し出されたチョコを受け取る。
「…よかった。今年は一番に渡せた。」
そんな日番谷の様子にがポツリと呟いた。
「……ん?…どういう意味だ?」
「…だって、もうすぐここ、冬獅郎の事を想う人たちからのチョコレートが山ほど届くでしょ?
いつもその山を見ちゃうと。…どうしても……ね。」
渡しづらいのだ。そのことをやんわりと告げるに、日番谷は少し視線を逸らして答える。
「……今年は、お前のしかねぇよ。」
「そんなワケないじゃない。…冬獅郎もてるんだから。…冬獅郎を好きな女性隊員はいっぱいいるんだから。」
日番谷の言葉をはそんなわけがないと、首を振る。
「…本当にお前のだけだ。」
「…冬獅郎?」
あくまでもそう言い切る日番谷にが戸惑いを見せ始めた。
「…松本が、今年のチョコレートの処理はどうするんだと聞いてきた時に、もうすぐそんなイベントがあった事を思い出した。」
ゆっくりと話し出す日番谷。
「…他の奴等のなんか興味がねぇ。」
「………。」
「……だから、今年は、一切受け取らないという通知を松本に出して貰っておいた。」
日番谷の言葉には驚き、その目を見開いた。
「…さすがに、逆チョコは知らなかったからな。……わるい。何にも用意してねぇ。」
謝る日番谷には首を振り続ける。
「……私の気持ち受け取ってくれただけで十分。」
そう答えるに日番谷は苦笑を浮かべながら答えた。
「……お前の気持ちを受けとらねぇなんて、そんなバカなこと、………誰がするかよ。」


なんとか、書きあがりましたが………
いつものごとく、甘くもなんとも無いですね(汗)
と、言うか…いつもこんなパターンの気が………
いつものごとく……
すいません。…精進します。