ユキマチ ソウ
―――
瀞霊廷図書館。
閲覧机には、いっぱいに積み上げられた資料。
それは、十番隊隊舎から図書館へ直行した、京楽と七緒が出したものだった。
名簿。
それが、閲覧机に積み上げられたもの。
「最近、五十年分の名簿を調べましたが……『クサカ』という名前の隊士はいませんでした。」
その手に持っていた資料を閲覧机に置き、七緒が言う。
「霊術院の方はどうだい?」
京楽もそれまで見ていた卒業名簿を閲覧机に置き、尋ねる。
「そちらも調べましたが、…それらしき名前はありませんでした。」
「と、なると……どうしたもんかねぇ……」
京楽は、七緒の報告を聞き、ふう。と溜息を吐くと、座っている椅子の背もたれにぐっと、背を預け天を仰ぐ。
十番隊隊舎から直行した二人。
今では陽はとうに落ち、あたりは既に暗くなっていた。
これだけ調べても出てこない『クサカ』と言う名前。
さすがの二人も疲労の様子が見て取れた。
「……ただ。」
背もたれにもたれかけ、そのまま動かない京楽に、七緒は資料を手に取り小さく呟いた。
「…ただ?」
七緒の呟きに京楽がその視線だけをそちらに向ける。
「日番谷隊長と三席が卒業された年の名簿に記されている人数と名前の数が一致しないんです。
…符号しない生徒は……北流魂街出身者ですね。」
資料に視線を落としたまま、七緒が告げる。
その報告に、京楽は預けていた背をゆっくりと起した。
「その地区の登録者名簿に『クサカ』という姓は?」
七緒の報告に京楽はその身を乗り出し、その報告を聞く体勢をとる。
「ちょっと待ってください。調べてみます。」
七緒は立ち上がり、閲覧机の端に積まれている名簿を取りパラパラとめくる。
「…ありました!これです。」
手に取った資料を京楽の前へと差し出す。
その資料には、切れ長の目をした好青年の写真が添付されていた。
「…これで『クサカ』ねぇ………。」
名簿の開かれたページを見て、京楽が呟く。
【草冠宗次郎】
その最後の欄には「死亡」の文字。
「…”死亡”ねぇ………。」
京楽はそう、呟きながらその名簿を閉じ、七緒に渡した。
「霊術院名簿には無いのに…単なる書き漏らしでしょうか?」
積み上げられた資料の上に京楽から手渡された資料を置き、七緒が尋ねる。
「…いや、そんな事はないんじゃないの?」
「…第一、”死亡”っていうんなら特にだよ。……なんらかの理由で、わざと削られた。……か?」
最後の方は呟くように言うと、京楽はその手を顎に持っていき、思案する。
「でも、これで少なくとも、例の襲撃者がこの”草冠宗次郎”という線は消えた。…と、いうことになりますね。」
「うーん………。」
七緒の意見に、京楽は目を閉じてさらに思案する。
「霊圧の消滅が確認されていない限りは、”死亡”として記されることはないからねぇ……まぁ。死んでいるんだろうけど……」
しばらく考え込んでいた京楽だったが、その目を開き手を頭の上で組み呟いた。
「”けど”……なんです?」
七緒の質問には答えず、京楽は再び背もたれに背を預け、天を仰ぐ。
しばらくその場に沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは七緒のほうだった。
「…隊長。」
「…んー?」
体制はそのままで、京楽は七緒の問いかけに生返事をする。
それを気にする事無く、七緒は続けた。
「…隊長は、日番谷隊長と三席が何も告げぬまま、姿を消された事をどうお考えなんですか?」
その問いかけに、京楽は視線だけを七緒に向けた。
「…反対に聞くけど、七緒ちゃんはどう、考えているんだい?」
「…それは……」
ゆっくりと向けられたその視線に七緒は戸惑いを見せる。
「あの二人を、信じてないのかい?」
「信じています!…でもっ!」
「…”でも”?」
「…何も告げずに姿を消す。と言うのは……。」
今日、会った乱菊の沈んだ表情を思い出すと、自然とその視線が落ちていく。
「話したくとも、話せない。…って事なんじゃないのかなぁ……。
あの二人の事だ。…きっと抱え込んでいるんだよ。…僕たちを巻き込まないでおこうって。」
「…………。」
「だからこそ、僕たちが調べて、『真実』を見つけなきゃぁね。」
京楽のその言葉に、七緒は、顔を上げる。
目の前には、ニッコリ微笑んだ自身の隊長の顔。
「そうですね。」
眼鏡を上げ、七緒が笑顔で返す。
「…それじゃ。」
ガタリ。と音を立て、京楽は椅子から立ち上がった。
「…隊長?」
「ちょっと、歩いてくる。七緒ちゃんは、草冠の”死亡理由”を調べておいてよ。」
「ちょっ、隊長!」
七緒の呼びかけに、京楽は振り向くことなく、ヒラヒラと手を振り図書館を後にした。
「…もうっ!」
残された七緒の叫びは、広い図書館に空しく響くだけだった。
一方。図書館を出た京楽は、月明かりの中、腕を組み、今得た情報を整理する。
考え込みながら歩いていると、ふと、気配を感じた。
気付かれないようゆっくりとそちらに神経を研ぎ澄ます。
歩いている背後から、コツコツと足音が聞こえる。
偶然?
それとも?
京楽は、正体を確かめるべく、歩くその速度を変える。
すると京楽の変えたその速度に、背後の人物もついてくる。
―――
目的は『自分』
そう、結論付けた京楽は、編み笠を深く被りなおし、その体勢を、気配を優しい物から厳しいものへと変える。
相手を迎え撃つべく、その歩みを止め、闘いやすい場所へと誘い込む。
………が、一向に相手がやって来ない。
不思議に思った京楽が、元来た道を戻ると、月明かりに照らされ、一人の男が立っていた。
男の顔には仮面。
王印の強奪者?
京楽の頭に、ふ。と、その考えが浮かぶ。
「…京楽春水この瀞霊廷で最も先見の目の持ち主。…やはりお前が最初に気付いたか。」
静かな声がその場に響いた。
「…お褒めに預かり光栄だが、その前に君の顔を見せてもらいたいねぇ。」
その男のただならぬ雰囲気に、京楽は冗談を言いながらも、いつでも闘えるよう、斬魄刀をその手に添える。
「…その必要は無い。」
京楽の答えに、男が答える。
「…なぜなら、お前はここで死ぬのだからな。」
その次に発せられた言葉に京楽は目を見開く事になる。
「日番冬獅郎の手に掛かって!」
そう、叫んだ男の手には斬魄刀。
始解し、発動された技によって、辺りにたちまち氷の波が立つ。
「・・・ええっ!その技は!!」
驚きで、一瞬判断が遅れるが、京楽はその身を翻しその攻撃をかわす。
が、一瞬反応が遅れたことにより、羽織っていた女物の内掛けが、その氷の矢に貫かれた。
考える間を与えず、男は京楽へと斬りかかってくるが、その攻撃をなんなくかわし攻撃に転じる。
「・・・顔を見せてもらうよ?」
男の前に素早く回りこんでその仮面を京楽は弾き飛ばした。
カラリ。と、音を立てその仮面が地面に落ちる。
「……君はっ!」
仮面の下から現れたその顔に京楽は言葉を失った。
そのあまりの驚きに、京楽に一瞬の隙が生まれる。
刹那、白い刃が京楽に迫った。

いつもの事ながら、苦労しました(汗)
図書館のシーンはほぼ小説と映画は同じだったと記憶があるのですが、
その図書館のシーンにちょっぴり空想(?)を挿入させて頂きました。
京楽隊長の戦闘シーン(?)はほとんど小説にはなく、
記憶のみが頼り。……あっているか激しく不安です。