ユキマチ ソウ








「………くそっ!」

追って来たインとヤンの気配を見失い、日番谷は小さく舌打ちをした。

「…。……どうだ?」

日番谷の後を付いて来たにも、問いかけては見るが、やはりも左右に首を振るだけ。

「……そうか。」

霊圧の感知に優れているが感じ取れないのなら、これ以上、あの二人を追うのは不可能だろう。


「……ごめん。冬獅郎。」

が俯き、申し訳なさそうに呟いた。

「お前が謝る事じゃ、ねぇだろう?」
「でもっ!」


「……。」

顔をあげ、更に何かを言おうとする、の頬に触れながら日番谷が再度言う。

「…もう一度言うぞ。…お前のせいじゃねぇ。 見失ったって言うなら、俺もそうだ。
 第一、俺のほうが先に追っていたんだ。…だから、………っ。」

突如、途切れた言葉。

「冬獅郎!」

苦痛に表情を歪める日番谷にが顔色を無くす。

「……っ。だい、じょうぶだ。」
「…大丈夫なわけ、無い!…さっきの黒崎君との事で傷口、開いたんでしょ?」

肩で息をする日番谷にが傷口を見せるよう、言い募る。

「…たいした事はねぇ。」

日番谷の傷を見ようとするの手を遮る。

「……その傷を治しちゃいけないことはわかってる。……だけど……せめて、止血はさせて。」

の言葉に日番谷は、苦笑を浮かべることしか出来なかった。

「……全部、お見通しかよ。」

傷を治してはいけない。
のその言葉に、日番谷は瞳を大きく見開いた。

そう、今、この傷を治す事は出来ない。
……あの男に対面するまで、

脳裏に過ぎったことが、本当に正しいのか確認できるまでは………
知らずに力が篭るその手。

「……何年、冬獅郎の傍にいると思っているの?」

そんな日番谷に、苦笑を零すの姿が目に映った。

「………悪い。」
「……私が聞きたいのは謝罪じゃないわ。」

のその言葉に、日番谷はふ、と、笑みを零した。




「ありがとう。……。」

日番谷の口から、謝罪では無い言葉を聞いたは、顔を綻ばせる。

「…どういたしまして。…じゃ、傷口見せて。」

その場に座るよう、案に告げると、何処からか、が包帯やら、ガーゼやらを用意しだす。

「………。……お前、それ……何処から………。」

の言うとおり素直にその場に座る日番谷。
が、ふと、疑問に思ったことを口にする。

「黒崎君のところから、ちょと拝借してきた。」

悪びれる事無くさらりと告げる

「……はい、しゃくって………っ。」

止血を施していたの手が、日番谷の傷口に触れた。
その瞬間、腹部に走った痛みに、日番谷は小さな声を上げる。

「…あ。ごめん。」

小さく漏れた日番谷の声を聞き逃さなかったは、傷口に触れていた手を思わず引っ込める。

「……いや、大丈夫だ。」
「…無理は、やめてね?」

心配そうに覗き込むの頬に触れて、日番谷は再度、大丈夫だと呟いた。

「………。」
「どうした?」

無言で、日番谷に止血を施していたに日番谷が声を掛ける。

「……が、……ば、……った。」
「ん?なんだって?」

の呟きが聞き取れず、日番谷が再度尋ねる。

「……私が、刺さればよかった。」
「ばか言うな。」

日番谷の声のトーンが低くなる。
その声色に、が顔を上げると、眉間に皺を寄せた不機嫌な顔の日番谷と視線が合う。

「冬獅郎?」
「……お前が刺されるなんて冗談じゃねぇ。」

でも。と続きを言おうとするが、それは日番谷によって遮られる。

「…第一、。…お前も怪我、してるだろう?」
「…冬獅郎に比べれば、こんな怪我、なんとも無い。」

「…骨が折れてるのにか?」
「…刺された冬獅郎の怪我に比べれば、こんなの怪我にならないわよ。」

溜息混じりに言う日番谷にも負けじと言い返す。

「…ったく。……無茶はしないでくれよ。」

の性格。
何を言ってもこれ以上は無理だと日番谷は悟る。

だが、今後の事を考えると、が無茶をしかねない事を思い、先に釘を刺しておく。


……何処まで有効かは、わからねぇがな。

その呟きを日番谷は口にする事無く、飲み込んだ。



「……よかった。」

の呟きに、日番谷は瞳を瞬かせた。

「…無茶をしなければ、冬獅郎に付いて行っていいって事よね?
 …ほんとは、何処かで撒かれるんじゃないかって、不安だったから。」

その言葉に、日番谷はその瞳を今度は大きく見開いた。

「…あ。やっぱり、…そのつもりだったんだ。」

寂しそうに笑うを日番谷はその胸に引き寄せる。

「冬獅郎?」

いきなり引き寄せられ、少し驚いた声を発するが、は大人しく日番谷の腕に収まる。

「…確かに、最初はそのつもりだった。……だが、今は違う。」
「…え?」

顔を上げると、翡翠の瞳がを真っ直ぐに見つめていた。

「……アイツが……お前も巻き込むつもりなら、放って置けるか。」
「…冬獅郎。」

ゆっくりと日番谷の手がの頬に触れる。

「…俺の知らねぇ所でお前を連れて行かれてたまるかよ。」

インとヤンは、もこちらへ渡せと言っていた。
つまりは、もアイツは巻き込むつもりでいるという事だ。



もし、このまま、を撒くか、追手にを任せてしまえば、それこそ奴の思う壺かも知れない。



ならば、
と、日番谷は思う。

例え、どんな危険になろうとも、自分が知らないところで、後になってに何かが起こっていたと知るよりも……
自分の傍に置き、自分が守ろうと。





「お前は、俺が守るから。」



……だから、傍にいろ。



そう、日番谷がに告げると、


「…じゃ、私は冬獅郎を守る。」

私の力なんて、冬獅郎の足元にも及ばないけど。

そう言って日番谷に、寄り添う



「…きつい事にはなると思うがな……。下手をすれば、護廷大命が出るかもしれねぇ。」

それでも………
ついてきてくれるか?



日番谷の言葉にはゆっくりと頷く。

「……付いてく。……どこまでも。……でも私、冬獅郎を死なせはしないよ。…絶対に。」

「俺も、お前を死なせやしねぇよ。」





これから先の事を思い、日番谷はその腕の中にいるの存在を確かめるかの様に、
その腕に力を込めた。






――― 夜は、完全に明けた。















……どうやら私、隊長に頬をあの手で、触って貰いたいみたいです(汗)
何回、隊長に頬、触ってもらってんだ?ウチのヒロイン。

今回は全くの私の妄想回です。
ええ。もう全くの妄想暴走の回です(汗)

隊長くらいの力をお持ちなら、霊力で止血してそうですが、
ここはあえてヒロインに止血して頂きました。