――― 夜が、明けようとしている。








ユキマチ ソウ








隊長羽織ではなく、仮面の男からもぎ取ったそのマントを身に纏った。
いつもは背にある斬魄刀を腰に挿し、ゆっくりとその顔を上げる。

日番谷の横にはの姿。
そのも日番谷に習うようにその視線を上にした。




見上げるその先にはクロサキ医院の看板。

日番谷は黙って一礼をした。

「……行くぞ。」

隣に居るに静かに声をかけると、日番谷は薄明の町をゆっくりと歩き出した。
も見上げた視線を少し下げると、その場で静かに一礼する。

そしてただ、黙って日番谷の後を追いかけた。

だが数歩、歩いたところで、がその歩みを止めた。

「…どうした。…。」

が歩みを止めた気配を感じ取り、日番谷が振り向き尋ねる。

「……いる。」

小さく呟く


……誰が。
と、日番谷は尋ねなかった。

その先に居るのが、誰なのか想像がついたから………

歩みを止め、その翡翠の瞳を一度ゆっくりと閉じ、霊圧を探る。

思い浮かんだ人物の霊圧をこの先に感じ取り、日番谷は思わず苦笑を浮かべた。

違う道を行く事も出来る。


だが、日番谷はそう、しなかった。

その閉じていた瞳をゆっくりと開き、その歩みを再び進めた。




「コソコソすんなよ。」

しばらく歩いていくと正面から、先程感じ取った人物の声が響く。
立ち止まり、二人は顔を上げた。

目の前には、死神化した、黒崎一護が腕組みをし、道の真ん中に佇んでいた。

「出て行く時は、堂々と出て行きゃ、いいじゃねぇか。
 …なんで、やましい事してるみてぇな真似、すんだよ?」

「…世話になった。…礼を言う。」

一護の質問には答えず、ただ、礼を述べるだけの日番谷。

「…お前、なんで一人で…って、も一緒か。
 なんで、以外の奴等は連れて行かねぇんだ?……何を、抱え込んでんだよ?」

一護は構わず質問を続ける。
その問いかけにも日番谷は答えない。

ただ、真っ直ぐに前を見据えている。

「……クサカ、って誰だ?」

その一護の問いかけに、驚いたように日番谷が目を瞠る。
隣に居たも息を呑む。

「…どこでそれを……。」
「…冬獅郎。」

驚いたように問いかける日番谷と、戸惑いを隠せない様子の

あの時、
倒れる寸前に、日番谷が呟いたその名前。
本当に微かな呟きだったのだが、どうやら一護の耳にも届いていたらしい。

「なんなんだよ。クサカって?
 お前を襲って王印奪った奴となんか関係あんのか?」

戸惑いを見せる二人に更なる質問を投げかける一護。
その矢継ぎ早な質問に日番谷は静かに目を伏せた。

「……殺された男の名だ。」

――― 殺された。

日番谷のその言葉に、は寂しそうに顔を歪めた。

「…殺された?……誰に?」

日番谷はその質問には答えず、歩き出す。

「ちょっ!待てよ!」

すれ違いざま、一護が日番谷の肩へと手を伸ばす。


刹那、
刀身が鞘を滑る音が聞こえた。

ギリギリのところでそれをかわす一護が見たもの。
それは、氷輪丸を手にした日番谷だった。

「…なんのつもりだよっ!」
「…邪魔を……するな!」

氷輪丸の刀身が一護へと向けられる。

「うるせぇ!目の前でガチャガチャやられて、黙ってられっかよっ!」

一護も斬月の柄に手を掛ける。
向き合う形で、二人が睨みあう。

は、先程の場所から動く事無く、二人を見ていたが、肩で息をしている日番谷に気付く。

――― 傷口が、開いた。

そう理解したが見たもの。

それは、日番谷の死覇装から、滲み出す血だった。

「っ!!」

はその場を瞬歩で駆け出した。


にらみ合う二人の間に、日番谷の前に影がさした。

「?!」

その霊圧に思わず自身の刃を引く。

「…。」

そして、目の前に現れた人物の名を口にした。

「…冬獅郎は下がってて。」

振り向く事無くそう、告げる

「…なに、言ってやがる。お前こそ、下がってろ。」

そう、言っての肩を掴もうとする。

「その怪我で動くつもり?……大丈夫。闘ったりしないから。」

やはり振り向く事無く、そう告げる
その言葉に、日番谷の手が止まる。



の斬魄刀・が見せたあの過去。

同じなのだと知ったあの時、
自分がしようとしていることを一番、理解してくれているのだと知った。

今、自分が一護との闘いを求めていない事も……

「……、俺が行く。どいてくれ。」

だからと言って、を一護と闘わせるわけにはいかない。

「だめ、それ以上、傷を開けないで。」

だが、は日番谷の前から動く事無く、一護を真っ直ぐに見たまま、答える。



不意に、前から溜息が聞こえた。
ふと、顔を上げると、頭に手をやり、ガシガシと掻き毟る一護の姿。
そして、おもむろに手を伸ばしたかと思うと、中指と人差し指を立てた。

「…隠密機動に連絡するか、うちに戻るかどっちか選べ!
 だって、冬獅郎の傷、それ以上開けたくねぇだろ?」

遠巻きにウチへ戻れと言っている一護に、その言葉に、その場の緊迫した空気が一気に緩んだ。
日番谷に至っては、翡翠の瞳を訝しげに見開いている。

一護は、どちらか選ぶまで一歩も引かないといった感で、手を前に差し出している。

――― この男は………

日番谷が思う。

氷輪丸を握るその手が緩もうとしたそのとき、が弾かれたように上を見上げた。

「冬獅郎!…黒崎君!…上!!」

その声と同時に二人も霊圧を感じとり、弾かれたように左右にとんだ。

同時に今まで居た三人の場所に何かの攻撃が落ちてきた。
煙が立ち込める中、見上げた三人の目に映ったのは、二人の女。


一人は、赤い髪の女。
最初にと、そして、日番谷と刃を交えた、王印を奪っていった女だった。

もう一人は青い髪の女。
二人は鏡に映したかのようによく似た二人だった。
ただ、色が違うというだけで………

「誰だ、お前ら!」

一護が声を荒げて尋ねる。

「我が名はイン。」

一護の質問に、青い髪の女が答える。

「我が名はヤン。」

続いて、赤い髪の女が。

「日番谷冬獅郎とをこちらに渡してもらおう。」

上空から三人を見下ろし、そう、告げる。

「なんだって?!」

一護が驚きの声をあげた。

驚きのまま一護が二人を見ると、名指しされた日番谷とも驚き、目を見開いている。

「………も、巻き込むつもりなのか?!」

日番谷が小さく呟いた。

連れて行って欲しいと言われた。
過去を知り、同じなんだと、知った。


だが、日番谷はを巻き込みたくはなかった。
隙を見つけて、を撒くか、追っ手が掛かるだろうから、その追っ手にを託そうと考えていたのだ。

待つのは嫌だと、言われた。

だが、それ以上に、日番谷はに傷付いて欲しくはなかった。
自分がやろうとしている事は、下手をすれば………。
………いや、きっと無傷では済まない。

だからこそ、どこかで、を……そう、考えていたのだ。


しかし、あの男が、も標的としているのなら、話が変わってくる。



「邪魔をするのであれば、」
「排除、する」

思考していた日番谷を二人の声が現実に戻す。

見上げた日番谷が見たものは、二人が短刀を手にする姿だった。

「あいつら、なんなんだ?!…知ってんのか?!」

一護が、日番谷に問いかける。

二人を見上げたままだった日番谷がゆっくりとその視線を一護へと向けた。
視線だけを、上の二人に、一護にと戸惑いを含めながらも交互に見る。



その動作が二、三度続いた。

ふと、視線が一護に向けられる。



そして、迷いを断ち切るように、日番谷は氷輪丸を振り上げ、一護へと切りかかった。

「っ!冬獅郎?!」

日番谷のいきなりの行動にが戸惑いの声をあげる。

体当たりするような形で一護に切りかかる日番谷は、そのまま一護の体を押し込んでいく。

いきなりの日番谷の行動に驚きながらも、斬月でその漸撃を受けた一護の体が後方へと滑っていく。

「冬獅郎!!……やめっ!!」

やめろ。
そう、言いかけた一護の耳に日番谷の声が聞こえた。

「黒崎!」

はっ、と一護が顔をあげる。


瞬間、日番谷の瞳が苦渋で歪んだ。


そして、目を伏せる。



「………頼む。」

その、声に………
その、表情に…………

一護は目を見開き、たじろいでしまう。
そのため、受け切れなかった日番谷からのニ撃目により、後方へ大きく吹き飛ばされた。

宙を舞う一護に上空に佇んでいたインとヤンが攻撃を仕掛けてきた。
体勢を立て直そうとするが、既に遅く、一護めがげて燃え盛る火球と雷を纏った光球が螺旋を描き回転しながら落ちてくる。


二撃共に、着地寸前の一護に直撃した。

「っつ!!」
「黒崎君!!」

爆風を防ぎながら日番谷とは着弾地点に目を凝らす。
爆音が響き、もうもうと煙が立ち込める。

その煙の中、ゆらりと立ち上がる影が浮かんだ。

「……生きて。」
「……いるのか?」

仕留めたと思っていたインとヤンは、その場に立っている一護に驚きを隠せない。
反対に、日番谷とは安堵の息を吐く。

とはいえ、一護は肩で大きく息をしていた。
その額からは血が滴り、地面にポタポタと 血の跡を落とす。

「……斬月で直撃を防いだのね。」
「……そのようだな。」

と日番谷が小さな声で一護に攻撃が直撃しなかった理由を悟る。
だが、致命傷を免れたとはいえ、深手を負っていることには違いは無かった。

ここで手を出せば、あの男の元へは辿り着けない。

日番谷は、歯がゆい思いを紛らすかのように氷輪丸を強く握りしめた。

「…ならばこれで!」
「どうだ!!」。

上空からのインとヤンの声に二人は顔を上げる。

「「死ね!!」」

二人の声が重なり、火と雷が合わさった光球が再び螺旋を描き一護へと向かって振り下ろされた。
先程とは比べ物にならないその炎雷の球。

「……っ!!」

日番谷はその霊圧に息を呑み、はぎゅっと唇をかみ締めた。
二人が一護を見つめる。

一護は迫りくる炎雷を見据えると、ゆっくりと瞳を閉じる。

次の瞬間、一護の霊圧が一気に跳ね上がる。
一護の周囲がその霊圧により、土埃を上げる。

「月牙天衝!!」

斬り上げた刀身から白い斬撃が空へと打ち出される。
その斬撃はインとヤンが放った炎雷球を消滅させただけではなく、上空の二人へと襲い掛かった。

いきなりの一護の攻撃にインとヤンは驚き、目を瞠るが、瞬時にその場を移動する。

「我等の攻撃を破るとは……」
「…なんという力。」

インとヤンは互いに顔を見合わせ、頷くとその場を去った。

「待て!」
「待ちなさいっ!!」

日番谷とが二人の跡を追って駆け出そうとする。

「冬獅郎!…!!」

その二人を一護の声が止める。

体力・霊力共に激しく消耗した一護はその場に斬月を突き立てる事により、ようやく立っていられる状態だった。

「…冬獅郎。お前、…何を。……は、……何を知って……。」

途切れそうになる意識の中、一護が二人に尋ねる。

「…………。」
「…………。」

二人は、何も答えない。

視界がぼやけていく中、一護が聞いた声。

「…。行くぞ。」

その声と同時に日番谷とがその場から瞬歩で、消えた。

「とう、………」

待て。

その言葉を、言う事無く、一護はその意識を手離した。















…戦闘シーンはやっぱり難しいです。(汗)

「DDR」の小説を参考にはさせて頂きましたが、
覚えている情景と文章力に差がありすぎて……
す、すいません(涙)
精進します。

一護に会う前の隊長の考えは映画を観た当初から自分が思っていた事です。
それをそのまま、今回書かせて頂きました。

……だって、隊長ですよ?
一護の霊圧に気付かないわけが無いと思いません??



桜の花言葉:純潔・精神美