ユキマチ ソウ
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夕方。
現世では学校を追えた井上織姫、石田雨竜、チャドこと茶渡泰虎の三人が、浦原喜助と共に、
浦原商店奥にある一室で、ちゃぶ台を囲み、一護・ルキアから現状の説明を聞いていた。
縁側には、座布団に寝そべっている黒猫姿の四楓院夜一の姿もあった。
「日番谷隊長が真央霊術院に入ってきたのは、わたしが朽木家に引き取られた後の事で、あまりよくは知らぬのだ。
…同じ流魂街出身とはいえ、わたしは戌吊で、日番谷隊長は潤林安出身で……」
考え込むように話していたルキアが、思い出したかのように、はっ。と、顔を上げる。
「……そういえば、五番隊の雛森副隊長とは姉弟のように育ったと聞いたことがある。」
「なら、その雛森って人に聞けばいい。」
石田のその意見に隣に座っていたチャドも静かに頷く。
しかし、その二人の意見に、ルキアはゆっくりと首を振る。
「…生憎、雛森副隊長は療養中だ。」
ルキアの呟きに、誰もが落胆の色を見せる。
身近にあったと思われた日番谷の今回の行動に対する手がかりが、
その唯一ともいえた手がかりが消え、その場にいた者たちは、一様に表情を曇らせた。
そんな様子にルキアも、同じように表情を曇らせたが、一瞬の沈黙の後、それに……と、小さく呟く。
「…これは、あくまでも私の勘なんだが、
……日番谷隊長は、雛森副隊長にも肝心な事は話していないように思う。」
何かを考え込むように口元に手を当て、そうルキアは呟く。
「……辛い事なら、尚更……」
そんなルキアを横目でチラリと見た浦原が、後を続けるように呟いた。
「…ああ。……そんなお方のような気がするのだ。」
そんな、浦原の意見に、ルキアは浦原の方へ視線を移し、小さく頷く。
「……じゃぁ。どうして、ちゃんは知ってるのかな?…冬獅郎くんが話したのかな?」
織姫が、そんな疑問をルキアに告げる。
「…え?」
ルキアが織姫の方へと視線を持っていく。
「…だって、ちゃん。冬獅郎くんと一緒にいるんでしょ?それって、事情を知っているからだよね?
幼馴染には話してないけど、ちゃんには話したって事なのかな?」
織姫の疑問に、皆が一様に顔を見合わせた。
「……いや、日番谷隊長は三席にも話されてはいないと思う。」
そんな織姫の疑問に、ルキアが首を振って否定する。
「じゃ、なんで……」
「…おそらく、何かをきっかけに三席が事実を知ってしまわれた。と考えるのが自然だと思う。」
ルキアのその言葉に、一護があっ。と、小さく声をあげた。
「なにか思い当たる事でもあるのか?」
一護の様子に気付いたルキアがその視線を一護へと移す。
「…アイツ。冬獅郎の斬魄刀手にした時、ちょっと様子がおかしかったんだけど……
それって関係あるか?」
苦笑交じりに告げる一護に対して、ルキアは浦原と顔を見合わせる。
「…おそらく、共鳴でしょうねぇー。」
ずずっ。とお茶をすすりながら、浦原が呟いた。
「「「共鳴?!」」」
「ええ。」
織姫、石田、チャドの声に、浦原がお茶をすすりながら頷く。
「斬魄刀同士が共鳴したんでしょう。日番谷隊長の斬魄刀は氷雪系。
三席の斬魄刀は流水系のはず。……似ているもの同士。共鳴もしやすいってモンですよ。」
ふぅ。と息を吐き、湯飲みをちゃぶ台へと置く。
「…それに、あのお二人は、わずか二年で護廷十三隊へ入隊されている。
…それだけの力をお持ちなのだから、人には言えない辛い事もたくさん経験されているやもしれぬ。」
そんな二人だからこそ、わかり合えて、行動を共にしているのだろう……。と
ルキアは視線を落としたまま、そう呟いた。
「…強い人、なんだね。…冬獅郎くんも。……ちゃんも……。」
「強いもんかよ!」
織姫の言葉に、一護が、持っていた湯飲みを、どん。と、乱暴にちゃぶ台へと置きながら叫んだ。
そんな一護を織姫が寂しそうな目で見つめる。
「強い奴が、なんで周りを悲しませるんだ!!
なんで、理由をわかってて、誰にも何も言わねぇーんだよっ!!」
苛立ちを隠せない様子の一護に、その場にいた誰もが言葉を失った。
「……誰にでも、言えぬ事の一つや二つあるのではないか?」
黙って聞いていた夜一がその沈黙を破り呟く。
「じゃぁ、これは黙ってていい事なのかよっ!」
夜一の言葉に、さらに興奮する一護。
「…話したくとも、話せぬ理由でもあるのじゃろう。
……コレだけの騒ぎになっているにも関わらず、黙ったままでいるという事は。…よほどに言いにくいことなのじゃろう。」
飛び級をしている二人ならではの辛い出来事が。
聞いた側にも、辛い思いをさせてしまうような。
そう、やすやすとは、口には出来ない何かがあったのだろう。と、
夜一が呟く。
「…お主にもあるであろう。……人には言えぬ事が一つや二つ。
あの二人の場合、その言えぬ出来事が重すぎるのであろう。」
夜一の冷静になれ。
と訴えるその視線に対しても、一護は一向にその興奮を収めようとはしない。
「重い、軽いの問題じゃねぇーよっ!」
興奮が一向に冷めない一護の様子に、夜一は小さく息を吐く。
「あの二人とて、お主たちを信用しておらぬ訳ではなかろう?
むしろ、………我々を巻き込みたくは無いと思い、黙っている。と、いう線が強いとおもうのじゃが?」
それは、いけないことなのか?
「……それはっ!」
夜一のその言葉に、一護は黙り込んでしまう。
再び訪れた沈黙。
その沈黙の中、浦原が自身の湯飲みにお茶を注ぐ音だけが、その場に響く。
「…ここでこれ以上考えていても仕方ありません。」
お茶を飲み干した浦原が、ふう。と息を一つ吐き、静かに立ち上がった。
「…アタシの方でも色々と調べてみますから、
とりあえず皆サンは引き続き日番谷隊長と、三席の行方を追ってください。」
そう言いいながら、浦原は茶の間を横切り、次の間へと続く障子を開ける。
その後ろを、黒猫姿の四楓院夜一が続いていく。
「…その男が、三席も巻き込むつもりであるなら
日番谷隊長は、三席を撒く事無く、…行動を共にされているでしょうから。」
立ち止まった浦原が振り向き、告げる。
「…一護。」
浦原の後に続いていた夜一も足を止める。
「……なんだよ?」
「……お前たちが、あの二人を信じてやればよいであろう?」
夜一の言葉に一護はその瞳を大きく見開いた。
「……俺は信じてるぜ。
冬獅郎を、……を!!」
「あたしもっ!」
「わたしもです。お二人を……信じております。」
一護の後に織姫、ルキアが続く。
石田と、チャドもゆっくりと頷いた。
「…それでよいではないか。
信じてくれる仲間がいるといないでは大きな違いがあるからの。」
そう言って、小さく微笑むと、夜一は浦原と共に、次の間へと姿を消した。
あとに残された一護たちは、顔を見合わせると、頷き合いその場から立ち上がる。
「…じゃ、手分けして、二人を探そうぜ!」
「どんな小さな手がかりでもかまわぬ、何かあったら連絡を。」
一護とルキアの言葉に皆が頷く。
そして、日番谷とを探す為、それぞれの方向へと皆が走り出した。
走りながら、一護は思う。
手がかりが無いなら、探し出す。
どんな小さな手がかりだろうと。
必ず二人を見つけ出す。
そして、伝えてやるんだ。
冬獅郎に………
に。
全部を背負い込むな。
お前達には、仲間がいるんだ。……と。

オリジナルな解釈を付け加えての浦原商店のシーンでした。
一護の隊長を思う気持ちはすっごく嬉しかったのですが、
話せないこともあると思うぞ、一護よ。
と、映画を観たとき思ったので、ちょぴし、夜一さまに話して頂きました(苦笑)
……しかし、夜一さま。…偽者だ(汗)