氷霧に包まれたその互いの身体。


その瞳に写ったもの。
それは、


……鈍く光る刃。


赤。……紅。……


黒。黒、黒。





伸ばされた、その手を、



掴む事が出来なかった…………。


















ユキマチ ソウ









「………う。」


「…、ろ…う。」

「…冬獅郎!」

その声に日番谷は、はっ。と、瞳を開いた。

「……?」

目の前にいる人物の名を日番谷は、不思議そうに呟く。

「…かなりうなされていたみたいだけど……大丈夫?」

うなされていた?

のその問いかけに日番谷は、自分が額に汗をかいている事に初めて気付く。



……夢。



――― ああ。そうか。


日番谷は、今、自分が見ていた夢を思い出す。

「…嫌な、夢でも見た?」

いつまでたっても先程の返事が返って来ないことには、更に不安を感じたのか、日番谷の様子を伺うように覗き込む。
その瞳は、心配げに揺れていた。

「……いや、そんなんじゃねぇよ。……ただ…昔の夢、…見たんだよ。」

日番谷は、心配げに覗き込むの額を安心させようと軽く、こついた。

「…昔の夢?」
「……ああ。」





あの頃の夢を見るとは………

「冬獅郎?」

黙り込んでしまった、日番谷には不安げにその名を呼ぶ。

「…ん?……ああ。」

大丈夫?

と、聞き返してくるに、日番谷はゆっくりと頷いた。


破れ落ちた屋根の穴から差し込んでくる優しい光に日番谷は、その視線を空へとやる。
見上げた空には月が浮かんでいた。




――― 夜、か。

「…あれから、俺は、どれくらい眠っていた?」

月を見上げながら、に問いかける日番谷。

「えっと。……三時間くらいかな?」

「……そうか。」

そこで一旦区切り、日番谷は視線をゆっくりとの方へとやった。
視線を向けられたは、どうしたの?とでもいう感で首を傾げる。



「…ところで、…。……お前、ここについた時……俺になんか、したか?」

そんなの様子に日番谷は人知れず、苦笑を浮かべながらもそう、問いかけた。

「えっ?」

いきなり問いかけられたは、一瞬、目を見開いた。



――― 何か、したか?


日番谷がそう、問いかけるのは、理由があった。
と、言うのもこの廃屋に着いた途端、日番谷は、倒れ込むように眠りについたのだ。



最後に聞こえたのは、

「大丈夫だから。……眠って。」

そう、囁くの声だった。


「…何か、したか?」

再度、日番谷がに尋ねる。

「……え、っと………。」

真っ直ぐにを見る日番谷に対し、はその視線から逃れるようにゆっくりと視線を逸らす。

「……したんだな。」

はぁ。と、言う溜息と共に、日番谷が呟く。

「だって!そうでもしないと、冬獅郎。休まないじゃない。」

「休める状況でも、立場でもねぇだろう?…第一、お前自身はどうなんだ?休んでるのかよ?」

「私は大丈夫なの!」
「何が大丈夫なんだよ。」

日番谷のように刺されたわけではないが、も怪我をしていることに変わりはないのだ。
大丈夫なわけがない。

日番谷の溜息には体の向きを変え、見つめ合う形に座り込む。

そして、ゆっくりと口を開いた。

「……この先、私が立ち入っちゃいけない事も待ってると思うもの。
 そのとき、当の本人の冬獅郎が、動けなかったら……絶対、冬獅郎後悔するよ?そんなの、嫌でしょ?
 だから、冬獅郎には休める時にしっかり休んでいて欲しいの。」

のその言葉に、日番谷は思わず言葉を無くす。

確かに、そうだ。

今、このときにでさえ、あの頃の事を酷く後悔しているのだ。

「…ね?…だから、休んでよ。…今は。」


敵わないな。
と、思う。

こういうときのには………。
統学院時代、何度、の一言で院生たちの争いが止んだかわからない。

そのたびに、皆が思った。

には、敵わない。
と、



「……くくく。…ったく。」

………敵わねぇな。

「冬獅郎?」

いきなり笑い出した日番谷に、驚き、不思議そうにその視線を向ける

「…なんでもねぇよ。……もう、十分休めた。…サンキュ。」
「…ほんとに?」

「…ああ。……それに、そうゆっくりもしてられねぇだろう?」

起きてから感じる数人の見知った霊圧。
どうやら、日番谷の頼みは聞いてもらえないらしい。

「…やっぱり、気付いてたんだ。」

今度はが苦笑を浮かべる。

「…気付かねぇ方がおかしいだろ?」

手分けして、自分達を探している数人の顔が浮かんでは消えていく。


全く。……どいつもこいつも、俺の頼みを聞いちゃくれねぇんだな。

もう一度、日番谷は空を見上げる。
先程に比べて、月の位置が高くなっている。



「…行くぞ。…これ以上ここにいると見つかるだろうからな。」

いくら、二人とも霊圧を消しているとはいえ、
一箇所に長く留まっていると見つかる可能性が出てくる。

そうなってしまうと、見知った人物達に見つかるのもだが、追手に見つかると、それこそ全てが無駄になってしまう。
それは絶対に避けなければいけない事。

「…っく。」

日番谷は、氷輪丸を支えに立ち上がろうとするが、上手く力が入らず、その場に再び倒れこんでしまった。

「っ。冬獅郎!!」


「…だい、じょうぶだ。…少し、霊圧を放出しすぎたみたいだな。」

走り寄って来たの肩を借りながら、日番谷はその場から立ち上がる。

「…行くぞ。…これ以上は時間を食ってられねぇからな。」
「…うん。」


二人は、ゆっくりと歩き出す。



あの、男を、
仮面の男を捜すべく、

王印を取り返す為に。

自分達の過去に、
決着をつけるために…………