あなたを必ず護ってみせると改めて誓う。


非力かもしれない。



でも、今その胸に私を抱いてくれているこの人は
紛れも無く、私の魂の半分を占めている人。
















ユキマチ ソウ













京楽が何者かに襲われたほぼ同時刻。
日番谷とは古い社の中で冷え切った夜風を凌いでいた。

時間が無い。
と、焦りながらも日番谷はの体を気遣ったのだ。

氷雪系最強の斬魄刀を持つ日番谷は、それなりの寒さを凌ぐ自信はある。
だが、は流水系。
いくら流水系の最強の斬魄刀の持ち主とは言え、この寒さには耐えられないだろうと判断した日番谷が、
どこかで寒さを凌ごうと提案したのだ。

その提案には大人しく従った。
も日番谷の体が心配だったのからだ。



古い社の中に月明かりが優しく入り込み二人を照らし出す。

その優しい光で、は浅い眠りから目を覚ました。
ふと、隣にいる日番谷に視線をやると、戸口にもたれ掛かり斬魄刀をその手に握り瞳を閉じている。

起さないように、近づいていくと、浅い呼吸を繰り返しているのがわかった。

「……青い顔。」

眠る日番谷の頬にそっとが触れる。


無理をして欲しくないのに。

頬に触れたその手を唇に持っていこうとしたの手がピクリと、止まる。

その視線を外にやる。
まだ、姿は見えないが、確実にこちらへ向かっている複数の霊圧。

――― 見つかった。

腰にあるに手を掛けたそのとき、



「…チッ。」

隣で小さく舌打ちをする音が聞こえた。

「…冬獅郎。」
「…ああ。」

日番谷はその戸口から外の様子を伺い、その表情を一瞬、曇らせる。

「…っ。」
「…囲まれたな。」

小さく息を呑むに、日番谷は逃げ場がない事を悟った。

「…檜佐木副隊長。……吉良副隊長。」

の呟きに、日番谷は再び小さく舌打ちをした。

「…三番・九番が追手か。」

そう、呟いたとき、外から檜佐木の声が響いた。

「日番谷隊長!緊急特令です。至急、瀞霊廷にお戻り下さい!」

その声に、日番谷はやはり。
と、思った

やはり、緊急特令が出されたかと。
だが、はどこか安堵の息を漏らした。


まだ、護廷大命ではないのだと。



「…。お前は出てくるなよ。」

その声には、その顔を日番谷の方へと向けた。

「…あいつ等は、今、俺の名前しか呼んでいない。」
「…でもっ!」
「…いいから、ここにいろ。」

が一緒に行動している事は、もう知れ渡ってはいるだろう。
だが、日番谷は、同じ死神同士の戦いをにはして欲しくなかった。

いや、させたくなかったのだ。

「ここに、必ず戻ってくるから。待っててくれ。」

そう言うと、を自信の胸へと引き寄せた。

「…わかった。必ず戻って来て。」

温もりを確認するかのようにそっと、その手を日番谷の背中へと回したがゆっくりと頷く。

「・・・行って来る。」

日番谷の言葉には再び頷いた。



日番谷は、ゆっくりとその社の戸を開けた。

「従うつもりは無い。」

低く、絞りだすような声。
日番谷のその気迫に、檜佐木・吉良をはじめとする隊士たちが、一瞬、身じろぎを見せる。
その隙を日番谷は見逃さなかった。

手に氷輪丸を強く握り、日番谷は檜佐木・吉良へと斬りかかる。
振り下ろされた氷輪丸を二人はかろうじて受けた。

「…おやめ下さい。謀反とみなされますよ。」

日番谷の斬魄刀を受けた吉良が、腕を震わせながらそう告げる。
二人の表情は苦渋に満ちていた。

「下がれ吉良、…檜佐木!」

脂汗を流し、肩で息をしながらも二人の剣を受け、びくともしない日番谷。

「日番谷隊長。…あなたを拘束します。」

そんな日番谷に檜佐木が静かに告げた。



苦痛と、もどかしい思いからか日番谷の表情が歪む。



「…死ぬぞ」

その翡翠の瞳に殺気が篭る。

そのすさまじい殺気に二人が身をひるませた瞬間、日番谷は、檜佐木に足蹴りを食らわせその体勢を崩させた。
その瞬間に、吉良へ新たな斬激を繰り出し、吉良の斬魄刀を弾き飛ばす。
次に檜佐木を斬撃で大きく後ろへと弾き飛ばした。

後ろへ大きく弾き飛ばされた檜佐木はその体勢をどうにか整えると、鳥居の上へとその身を躍らせ素早く、印を結び始めた。


「縛道の六十二!…百歩欄干!」

日番谷はその声に、はっと、上空を見上げる。
その目に映ったのは、真っ直ぐに伸ばした檜佐木のその手に表れた光の棒。

その攻撃を避けようと体勢を取ろうとしたとき、横から吉良が、日番谷へと再び攻撃を仕掛けてきた。
その斬撃を受け流し、攻撃に入ろうとしたそのとき、欄干が日番谷目掛けて飛んでくるのが見えた。


刹那、日番谷は攻撃を受け流し、その欄干から逃れる。
すぐ目に前に突き刺された欄干に、他の死神たちは顔を引きつらせた。

何本もの欄干が参道へ突き刺さっていく。
それを日番谷は瞬歩で避けていった。



……が、通常の状態なら、容易く避けられるであろうものでも、今の日番谷の状態では、かろうじて避けられていた。

参道中央に逃れた瞬間、次の欄干が日番谷へ迫って来ていた。



逃げられない。

そう悟った時だった。

「冬獅郎!!」



どん。と、日番谷の体が賽銭箱の方へと倒れ込む。


日番谷の目に映ったのは、自身の変わりに欄干に右肩を死覇装もろとも貫かれたの姿だった。

「っ!!!!」

倒れ込むの体を日番谷は慌てて支えた。

「と、冬獅郎。……どこもなんともない?」

日番谷の質問には答えず、その体を気遣う言葉がの口から漏れる。

「ば、ばかやろうっ!!動くなっ!」

がその体を動かそうとした為、日番谷は声を荒げ、そのの右肩を貫いた欄干を必死で抜き取る。

「…どこも、なんとも…ない?」

が再び日番谷へ尋ねてきた。

「…っ。」

のその言葉に、行動に、日番谷は唇を強くかみ締める。
出てくるな。…そう、言ったはずなのに………

どうして、いつもコイツは………


の問いに答えなければ、いつまでも同じ事を問いかけてくるだろう。
そう思った日番谷は、その口をゆっくりと開き、その問いに答えた。

「……ああ。…お前のお陰で、助かった。」
「…そ。…よかった。」

安心したように倒れ込んだの体を日番谷は強く抱きしめた。

「…ばかやろうっ。」


その光景をただ、じっと見つめていた追手の死神たちだったが、一番に気を取り戻したのは檜佐木だった。

「……。…やっぱり、お前も一緒、だったんだな。」

ゆっくりと近づき、呟く。



もう、だめだ。
がそう、思った瞬間、日番谷に強く抱き寄せられる。
何事かと思い、顔を少し上げ、日番谷の方を見ると、

「…。少しだけ、我慢してくれ。」

の耳元に日番谷が、そう小さく囁いた。

「………。」



「……日番谷隊長。……君。……大人しくして、下さい。」

動かない二人に、吉良は観念したのだろうと思い、その手をゆっくりと二人へと伸ばした。



その刹那、日番谷の絞り出すかの様な声が響いた。

「………霜天に坐せ。」


息を吸い込み、改めて自身の半身である斬魄刀の名を呼ぶ。



「氷輪丸!!」

日番谷の霊圧が一気に爆発し、刀身から氷の竜が姿を現した。


現れた氷の竜は辺りを舐めるように、辺り一帯を氷雪へと閉ざしていく。




そのあまりにも強大な霊圧の爆発は、他の人物達にも日番谷の居場所を教える事となった。



そう、黒崎一護達にも。




探していた霊圧を感じ取った一護は、その霊圧が放たれている方へと視線を巡らす。




追手を一掃した、氷の竜を纏った日番谷は、をその腕に抱き、その場を後にする。

吉良と檜佐木たちに言葉を残して。



「…許してくれ。吉良、檜佐木。……今は、捕まるわけには……いかねぇんだよ。」