ユキマチ ソウ








瀞霊廷・綜合救護詰所。



上級施術室に蒼白な顔色の京楽春水が運び込まれてきた。
ゆっくりと深い息を繰り返す京楽の状況を診た四番隊隊長卯ノ花列の顔色が、さっと険しくなった。

「清浄結界の準備を!すぐに術式を開始します!」

卯ノ花のその声を聞いて四番隊副隊長虎徹勇音を始めとする隊士たちが一斉に各々の仕事に取り掛かる。
その様子を廊下で見ていた七緒は泣き出し、自分をしきりに責め始めた。

「……私の…せいだ。……私の…っ」

その場に座り込み、何度もそう繰り返し続ける七緒。
そんな七緒に背後から声が掛かる。

「君の責任じゃないよ。」

その声に顔を上げると、浮竹十四郎がこちらへ向かって歩いてくるところだった。
浮竹の後ろには虎徹清音も控えている。

「…浮竹隊長。」

流れ落ちる涙を拭きながら、七緒はその場から立ち上がった。

「京楽がやられたのなら、それは、相手が不意をついたか。本当に彼を上回る力量を備えていたのだろう…違うかい?」
「ですがっ……!」

さらに何かを言おうとする七緒をたしなめ、真っ直ぐにその目を見る。

「…もう一度言うよ。…君の責任じゃぁ、ない。」

浮竹の言葉が七緒の心を徐々に落ち着かせていく。

「今、六番隊が現場を検証している。刺客はすぐにつかまるさ。」

落ち着きを取り戻しつつある七緒に浮竹はそう伝えた。
自らにも、言い聞かせるかのように。





瀞霊廷・京楽春水襲撃現場。



京楽が襲われた現場は、細い路地に入ったところだった。
その路地の周りは元の建物の形が不明なほど破壊されている。

しかも所々に氷塊が残されており、辺りは凍えるように寒かった。

「……っ。」

現場検証に来た阿散井恋次はその現状を見て息を呑んだ。

頭に浮かぶのは、ただひとりの人物。
そんな訳は無いと言い聞かせるが、この現状を見る限りそう、言い切れない自身がいた。

それでも、違う。

そんなはずはない。
そう、自分に言い聞かせていた。

その場に立ち尽くしていた恋次がふと、足元に目をやると、いつも京楽が羽織っている女物の着物の切れ端が目に入った。
しゃがみこみ、それを手に取った瞬間、その着物は氷のかけらと共にパリパリと音を立てて砕け散ってしまった。

「………。」

恋次が再びその息を呑んだとき、 近くの瓦礫に手を当て、霊圧を探っていた朽木白哉の静かな声が恋次に届いた。

「…間違いない。…氷輪丸だ。」

その声に、恋次はただ、立ち尽くすことしかできなかった。



再び、綜合救護詰所。



廊下で卯ノ花が執り行っている術式が終えるのを待っていた一同の元に一つの連絡が入る。
六番隊の検証結果を聞いた浮竹は信じられないとばかりに声を荒げた。

「…なに?!……氷輪丸だと?!」
「…日番谷隊長が?!」

傍らで報告を聞いていた七緒も信じられないとばかりに驚きに目を見開き呟いた。

「……そっちも、いい話じゃなさそうだね。」

わずかな気配を感じ取った浮竹が、前方に目をやる。
その声に清音と七緒も前方を見ると、隠密機動第五分隊・裏廷隊の隊員が立っていた。


隊員は音も無く浮竹の下へ歩み出て、スッと、膝を折る。
そして、静かに声にした。

「報告。三番隊吉良イズル並びに九番隊檜佐木修平隊長権限代行が、日番谷冬獅郎とに現世にて遭遇。
 抵抗を受け負傷いたしました。」

淡々と伝える裏廷隊隊員。


報告を聞いた浮竹はその目を見開き、残る二人も息を呑み、信じられない思いで聞いていた。


裏廷隊隊員が音もなく消えた後、残された者達は誰一人として、言葉を発する事はなかった。





現世・空虚町神社前。



日番谷が氷輪丸を始解した事によって、町内に散らばって日番谷たちを探していた一護たちにも、ふたりの居場所がわかった。
急いで駆けつけた一護たちだったが、その場所に辿りついたときにはもう、既に日番谷との姿はそこには無かった。

あるのは、日番谷が始解したことによってできたいくつかの氷塊と、肌寒い空気。

「………。」

一同は声も出なかった。








「…返り討ち?!」

ルキアの元にも吉良と檜佐木が負傷した。と、いう報告が入る。
その事実をルキアから聞いた一護たちは、驚きの声をあげた。

「冬獅郎くんが仲間を攻撃したって事?」

信じられないとばかりに、織姫が一護に、問いかける。
だが、その問いかけに、一護も、他の誰もが答えない。



「…それだけではない。京楽隊長もやられたそうだ。」

しばらくの沈黙を破り、ルキアが受けたもう一つの事実を皆に伝える。

「京楽さんが?」

その事実に最も驚いたのはチャドだった。


一度、京楽と対戦したことがあるチャド。京楽の強さは身にしみて知っている。

その京楽が攻撃を受けて重傷だと聞き、信じられないとばかりに声をあげた。


しかも、京楽に重傷を負わせたのが、氷輪丸だと知り、さらに信じられない思いだった。

「………恋次の話によると、氷輪丸にやられて、…どちらも重傷らしい。」

沈痛な面持ちでその事実を伝えるルキア。
五人の間に重たい空気が流れ出す。

「…」

パシン。と、音をたてて苛立ちを隠しもせず、自身の手を打ち付ける一護。



「…おい、石田。お前霊圧で追えねぇーのかよ?…お前、得意だろ?」

しばらく、俯いていた一護が顔を上げた。

「…無理だ。」

一護の問いに石田は首を横に振った。

「どうしてだよっ!!」

「…こうも完全に霊圧を消されていては、探しようがない。」

声を荒げる一護に、石田はあくまでも冷静に答える。

「…くそっ!!…ルキア!なんんか手はねぇーのかよ!!」

ルキアに視線をやるが、ルキアもまた、首を横に振るだけだった。

「…霊圧を消すというのは誰にでもできるような術ではない。霊圧を長時間、一定の量を放出し続けられる者でなければ使えぬ。
   つまり、非常に高度な結界術なのだ。…それ故、補足することは不可能に近い。しかも三席がご一緒なら尚更だ。」

「…どういう事だよ?」

溜息混じりに呟くルキアに対して、
ルキアの説明を聞いた一護は眉根を寄せる。

三席は霊圧感知に非常に優れていらっしゃるのだ。その気になれば、我々のいる場所など、手に取るようにわかってしまう。」

遠巻きに自分達からも二人が逃げているであろう事を伝えるルキア。

「…ちょっと待てよ。それって、俺たちからも逃げてるって事か?」
「……おそらくな。」

「…どうして。」

織姫の呟きを最後に誰も口を開く事が無く、
再び、沈黙が訪れた。



「…じゃぁ、なんで冬獅郎のヤツ始解したんだ?」

俯いていた一護が顔を上げ呟く。
自分達からも逃げているのなら、始解をすれば居場所が突き止められてしまうのはわかっていただろう。
いくら追っ手が吉良たちとは言え、日番谷は隊長だ。

始解などせずに闘える。
なのにどうして、そんな危険を冒してまで始解をする必要があったのか。

ふと、そんな疑問が一護の脳裏を掠めた。

「…始解をしなければならないほど日番谷隊長の怪我が酷くなっておられるか、
 同行しておられる三席に何かあったか。…そのどちらかだと思う。」

「…それって、さんもその闘いの中で怪我をした可能性があるって事かい?」

石田の呟きに、ルキアは、

「……恐らく。」

と、小さな声で返した。


その場にいた五人は気ばかりが焦りだす。

しかし、霊圧は完全に消され、何処にいるかわからない。


「……くっそー、また振り出しに逆戻りかよ!!」

苛立ちを隠すかのように一護は自身の髪を掻き毟った。


今更ながらに悔やまれる。
一度は傍にいた二人。

あの時、止めることが出来ていたなら……

何処かで、すぐに見つけられると思っていた自分に、一護は腹が立った。

そして、そこまで全てを背負い込んでいる日番谷にも………
全てを理解していながら誰にも何も言わず、日番谷と行動を共にしている、にも……



一護が黙り込んだことにより、再び沈黙が訪れた。



「………。」

小さな溜息と共に織姫がその場にしゃがみ込んでしまった事により、五人の中の空気が動き出した。

「…すっかり朝だな。」

その様子を見たチャドが静かに呟いた。

静か昇る朝日が仲間の疲労の色を照らし出す。
一護は、しゃがみ込んだ織姫に手を差し出し、立ち上がらせた。

「……一度、帰って午後からまた、出直すか。」

「…私なら、大丈夫だよ!」

一護の呟きに織姫は慌ててガッツポーズを作るが、ルキアは一護の意見に賛同した。

「…いや、それがよいだろう。慌てても、すぐに見つかるとは限らないのだからな。」

疲労の中、ただ闇雲に探し回っても、逆に疲れが溜まるだけ。
焦る気持ちを必死で抑え、ルキアの言葉に、皆は、黙って頷いた。



そして改めて誓う。
どんなに困難であろうと、絶対に見つけてやる。

と。
ゆっくりと昇り始めたその光を見つめ、五つの影がそう、心に強く誓った。









………お待たせしました。(誰も待ってない。)
ようやくパソの前に長時間座る時間が持てました。


しかも、ここは原作シーンだというのにどれだけかかっとんねん!!
って、感じですが、自分の妄想も少々入っております。

やっぱり、文才欲しいなぁ。(しみじみ)