ユキマチ ソウ
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尸魂界。
一番隊舎・隊首会議場
「日番谷冬獅郎。、謀反の疑いにより。緊急特令を、護廷大命へ変更する。」
山本元柳斎重国の威厳に満ちた声が議場に響き渡る。
そんな威厳をものともせず、四番隊隊長・卯ノ花列が一歩前に進みでた。
「お言葉ではございますが、いささか拙速すぎるのでは?」
どこか、腑に落ちない点があるのか、卯ノ花は、そう、元柳斎に進言する。
「異議は認めぬ!」
そんな卯ノ花に元柳斎は、ぴしゃりと言い放った。
「王印の捜索は引き続き行なう。日番谷冬獅郎、の両名に関しては捕縛を第一義とする。
その際、抵抗するようなことあらば………。」
居並ぶ隊長たちの顔を一回り見渡し、一呼吸置き、言い放った。
「処刑せよ!」
―――
現世。
「……冬、獅郎?」
視界に映ったのは心配げな翡翠の瞳だった。
「!気がついたか。」
「…ここ、は……っ。」
「…ばかっ!いきなり起き上がるなっ!」
起き上がろうとしたは肩に走った痛みに顔を歪める。
そんなを日番谷は、慌てて支え、起き上がらせた。
「…私?……」
今、自分が何処にいるのかわからないは辺りを見回し、その視線を日番谷に向ける。
「…覚えてねェか?」
戸惑いの視線を向けるに苦笑を浮かべる日番谷。
しばらく考え込んだは、思い出したのか、あ。と、小さく呟いた。
「…悪かった、な。」
「…どうして、冬獅郎が謝るの?」
いきなり謝ってきた日番谷には不思議そうな表情を向ける。
「……俺を庇ったせいでその怪我だ。そのうえ………」
怪我をしたを抱え、始解した事を言っているのだと理解したは、苦しそうに顔を歪める日番谷にそっとその手を伸ばした。
「冬獅郎は悪くないよ。……だから、冬獅郎は謝らないでよ。」
日番谷の頬に触れると、外気のせいだけではない冷たさを感じた。
さらに、血の気が無くなったその顔色。
「………ごめん。…謝らなきゃいけないのは私だよ。」
俯き、謝るに今度は日番谷が不思議そうに見る。
「お前が謝るようなことは一つもねェと思うが?」
片眉を上げ、不思議そうな顔を見せる冬獅郎に、は小さく笑う。
「…何が、可笑しいんだよ。」
の小さな笑声が聞こえたのか、今度は、日番谷の眉根が寄せられる。
「……ごめん。…さっきの顔、乱菊さんにも見せたいなぁ。って、思ったら……」
「……あのなぁ。……ったく。」
クスクスと、笑うのその様子に日番谷が安堵の息を吐いた。
「……ごめんね。冬獅郎。」
笑いを止めた、が再び日番谷に謝る。
「……だから、どうしてお前が謝るんだ?」
日番谷も再度同じ問いを投げかける。
「…その体で無理をさせてしまったんだもの。……冬獅郎の言う通り、私が出なければ、よかったんだろうけど。
あの、状況を見ていたら、じっとしていられなくて………。」
は俯くと、再度小さくごめん。と、呟いた。
そんなの頭に、優しい重みが感じられた。
顔を上げると、困った風な日番谷の笑顔があった。
「…冬獅郎?」
「謝るなよ。……本当なら、俺がお前を守らなきゃならない立場なんだぜ?…だから、俺が謝るべきなんだよ。
お前に、こんな怪我までさせて………」
欄干を受け傷付いたの肩を見つめ、表情を歪ませ見る日番谷。
「それは、違うよっ!」
そんな日番谷に、は慌てて否定するが、日番谷は首を横に振る。
「…違がわねェよ。」
「違う!」
今度はが首を大きく横に振る。
「違う!!」
は何度も繰り返し続ける。
「…。」
そんなを日番谷は、落ち着かせようと静かに抱き寄せた。
「…わかったから。…落ち着け。
……でも、お前に怪我をさせちまったのは事実だ。……だから、謝らせてくれよ。……頼む。」
「…冬獅郎。」
抱きしめられたことにより、感じる日番谷のその温もりと匂いに、ゆっくりと興奮が冷め、に落ち着きが戻ってくる。
「…お前は、黒崎の家で、俺に『あんな思いは二度とごめんだ』と、言ったよな。」
を抱きしめたまま、前を見据え、日番谷がゆっくりと口を開く。
「…うん。」
いきなりの日番谷の言葉に、は日番谷が何を言いたいのかわからなかったが、とりあえず相打ちを打った。
相打ちを打った事により、を抱きしめる日番谷の腕に少し、力が加わる。
「俺だって、……あんな思いは、二度とごめんだ。」
力を込め、を抱き寄せる日番谷に、自分が以前、重傷を負ったときの事を思い出す。
目が、覚めた時、一番最初に映ったのが、日番谷の翡翠の瞳だった。
そう、今回と同じように。
「………。」
「…あんな思いは、二度とゴメンだと思っていたのに………」
日番谷の脳裏に欄干で貫かれたの姿が思い浮かぶ。
「…冬獅郎。…苦しいよ。」
更に込められた力に、は思わず身をよじる。
が、日番谷の腕の力は一向に緩む気配が無い。
「…冬獅郎?」
どうにか、日番谷の表情を伺おうとするが、込められた力が強く、自由がきかない為、うかがい知る事ができないでいた。
「…頼む。…これ以上は無茶、しないでくれ。」
「…冬獅郎。」
くぐもって聞こえてきた声。
その切実さに、は一瞬、声をなくした。
守りたいと思う人に、こんな思いをさせている自分が悔しかった。
でも、傍を離れたくないと思う自分がいる。
その背負っているものを少しでも分けて欲しいと、願う自分がいる。
「…冬獅郎。…一緒に、生きようね。」
の口からでた言葉。
その言葉に、日番谷がを抱きしめていた腕を解き、視線を向ける。
「…死ぬときは一緒だとか、あなたを守ってみせる。…なんてもう、言わない。
……だけど、代わりにって言うのも変、だけど………一緒に、生きようね。……冬獅郎。」
ただでさえ、難しい立場にあった二人。
必要だったとはいえ、同じ死神である、檜佐木と吉良に手を掛け、重傷を負わせたことにより、
その立場はもっと重いものになっただろう。
そんな立場になっても尚、希望を捨てていないに答える為にも
日番谷は、微笑み頷いた。
「……ああ。そうだな。……一緒に、生きよう。」