「…夜が明けるね。」
空に目をやったがポツリと呟いた。
「…ああ。……。」
同じく空を見上げた日番谷も呟く。
王印が強奪され、二度目の夜が明ける。
ユキマチ ソウ
「…行けるか?」
立ち上がり、視線をへと向ける日番谷。
は日番谷を見上げ頷く。
「これ以上、時間をかけてられないでしょ?」
そう言うと、はその場から立ち上がり、再度日番谷を見る。
そして、二人は頷き合うと、その場から瞬歩で姿を消した。
―――
空座町・クロサキ医院
布団に入り仮眠を取っていた一護の耳に電子音が聞こえていた。
手を伸ばし、机の上にある目覚まし時計に手を掛け、その電子音を止めようとするが、一向に止まる気配がない。
一護は布団の中から跳ね起き、その目覚まし時計を寝ぼけ眼で見つめる。
「……ああ。」
そしてようやくその電子音が自身の目覚まし時計からではなく、押入れで眠っているルキアの伝令神機の呼び出し音だと理解した。
伝令神機の呼び出し音が止まったかと思うと、押入れのふすまを勢いよく開け、
そこからルキアがこれまた勢いよく飛び出してきた。
「一護!恋次からだ!」
今だ寝ぼけ眼の一護は反応が悪いが、ルキアの方へと体を向ける。
「護廷大命がでた!」
「…護廷大命?……なんだ?そりゃ?」
意味が分からないとばかりに一護はルキアに聞き返す。
「…日番谷隊長と三席に…実質、処刑命令が、出た。…という事だ。」
ルキアは俯き加減で、言いづらそうにその事実を伝える。
「………。」
ルキアの言葉を聞いた一護は一瞬の沈黙の後、ルキアの言葉の意味をようやく理解したのか、勢いよく立ち上がった。
「処刑命令?!……どういうことだよ?!」
ルキアの肩を抱き、一護が更なる説明を求める。
「…もはや一刻の猶予も無く、いかなる酌量の余地もない、……と、いう事だ。」
先程よりもさらに重い口調でルキアが告げる。
それを聞いた一護は二の次を告げられないでいた。
そんな二人の間の沈黙を伝令神機の向こう側にいる恋次の声が突き破った。
「ルキア。まだ話がある!『クサカ』がわかった!」
その声にルキアと一護は顔を上げ、その視線を合わせた。
聞こえたとばかりに一護が頷くと、ルキアはボタンを操作し、スピーカーへと切り替えた。
「恋次。続けてくれ。」
そのルキアの声を合図に伝令神機からは再び恋次の声が響いてきた。
「草冠宗次郎。日番谷隊長のかつての級友だ。彼が死んだのは、日番谷隊長が真央霊術院を卒業する直前…」
突然、攻撃を受け部屋の壁が吹き飛んだ。
爆煙の中から死覇装姿の一護とルキアが飛び出す。
外に飛び出した二人が見たもの。
それは、インとヤンだった。
「てめぇら!」
一護が斬月を抜き、構える。
「…言ったはずだ。」
ゆっくりとインが口を開く。
さらに、
「邪魔をするなら、排除すると。」
ヤンがその後をさらに続ける。
「…死神か。」
さらに別の方向から声が聞こえた。
一護はそちらへと顔を向ける。
「…誰だ!」
仮面をつけた男がそこに立っていた。
「…一護。気をつけろ。…その男、できるぞ。…尋常ではない霊圧だ。」
インとヤンに対峙しつつ、ルキアが一護に注意を促す。
そんなルキアの言葉に、仮面の男はふっと、一つ息を吐き、剣を鞘から引き抜き、構える。
「…それはっ!!」
柄を見たルキアが驚きの声をあげた。
見覚えのある、その柄。
知っている人が持つその柄とは、少し感じが違うように感じたが、その斬魄刀の名はよく知っていた。
「…氷輪丸?!」
―――
尸魂界。綜合救護詰所
氷輪丸の攻撃を受け、重傷を負った京楽。
卯ノ花が施した施術は無事成功していたが、意識の回復は未だ、見られなかった。
京楽は、浅い息をゆっくりと繰り返し眠っている。
そのベットの周りを囲うように、伊勢七緒・浮竹十四郎・朽木白哉が立っている。
「……これでは逆だな。京楽。……床に伏して見舞われるのは、いつも俺のほうだったはずだ………。」
眉根を寄せ、やりきれない思いで、眠り続ける京楽を浮竹は見つめる。
「しかし………」
浮竹は、思っている事をそれ以上は口には出さなかった。
―――
京楽を襲ったのは氷輪丸。
それを浮竹はどうしても信じる事ができなかった。
「……腑に落ちぬ点が、一つある。」
それまで黙ったまま、一歩離れて京楽の様子を見ていた白哉が口を開いた。
「調査により判明した、氷輪丸の犯行時刻と、捜索隊が日番谷に接触した時刻……。」
その言葉に、浮竹と七緒が、はっと顔を上げる。
「前世にどのように向かってもそれなりの時間が掛かるはず……。」
白哉の言葉に浮竹はその目を見開いていく。
「…どちらもが本当に氷輪丸によるものだとすれば……。」
白哉のその言葉に、浮竹は何か、突破口のようなものが見えてきた気がした。
―――
空座町・クロサキ医院上空
「…霜天に坐せ、氷輪丸!!」
仮面の男がそう叫ぶと、斬魄刀からは、すさまじい霊圧と共に、日番谷と同じような氷の龍が姿を現した。
始解により、柄から出た、鎖鎌に腕を捕まれた一護が空中を舞う。
「……なんでっ、てめぇがっ!!」
氷輪丸を構えた男が一護へと向かってくる。
「氷輪丸持ち主だからだ!」
仮面の男の斬撃を受けた一護の脳裏に映像が飛び込んできた。
―――
なんだ?!……今のは?
一護は、その飛び込んできた映像に、戸惑いながらも、仮面の男斬撃を受け止めていた。
―――
尸魂界。技術開発局・電脳室。
「…双子の斬魄刀と、言ったのカネ?」
白哉と浮竹の説明をひとしきり聞いたマユリがギロリとその目を剥いた。
「…斬魄刀は死神自身の魂から生まれるものだヨ。」
その体を二人に向け、マユリはさらに説明を続ける。
「始解とは、その斬魄刀と死神が一対一で行なわれる契約のようなもの。……複数の死神と契約する事などあり得ない。……それは斬魄刀ではない。」
「では、それが存在しないということは証明できるか?…氷輪丸が二振りあるはずがない。…という証明は。」
「…氷輪丸?」
マユリが浮竹の言葉にピクリと反応を見せた。
「…仮に二振りあるとしたら、もう一方の持ち主が…」
「なるほど!キミたちがワタシを訪ねてきたワケがわかったヨ!」
マユリは浮竹の言葉を遮り、どこか楽しげに体を大げささに揺らしながら言った。
「大霊書回廊の奥の院に忍び込む事などワタシにとっては造作もない。」
そう、嬉しそうに呟くと、向きを操作パネルへと向きなおすとパネルと叩き始めた。
画面にマユリが打ち出した文字が映し出されていく。
それと同時に、大霊書回廊の奥の院も反応し、光始めていた。
大霊書回廊に記されている事が次々に打ち出され、マユリの目の前に高速で文字が流れていく。
「…これは!」
導き出したある事実にマユリの目が止まり驚きの声をあげる。
画面に打ち出されたもの。
マユリが引き出したもの。
それは尸魂界の、闇。
日番谷が、心の奥底にしまいこんだ
背負い続けている過去が、そこには打ち出されていた。