空座町のとある丘の上に一筋の雲が流れている。
一見、ただの雲に見えるが、その雲の上には王印を運んでいる壮麗な行列があるのだ。
それを見上げるは、今回この王印の警備を任された十番隊の一人。
三席にその身を置く、。
「……なんだろう。この、胸騒ぎは……。」
壮麗な行列を見上げながら、が小さく呟いた。
こちらに来てから、の胸にはザワザワとした、嫌なものを感じるようになった。
嫌でも思い出される、自分の斬魄刀が放ったあの言葉。
ぶるり。と一瞬、の体が戦慄(わなな)いた。
それを振り切るように、頭を軽く振り一つ息を吐く。
「……………。」
―――
何事も起きませんように。
そう心に願うと、上空に待機している日番谷に現状を報告する為、
瞬歩でその場を後にした。
ユキマチ ソウ
はるか上空に、隊首羽織の十の文字を風にはためかせ、日番谷冬獅郎が佇んでいる。
「隊長。」
行列付近空中に、神輿を見つめている日番谷に声を掛ける。
「…か。」
風に隊首羽織をはためかせ、日番谷が振り向く。
「こちらは各所、異常ありません。」
の報告に日番谷は軽く頷き、再び視線を行列の方へと戻した。
も間近の神輿を見上げる。
「……それにしても………。」
「ん?」
言葉を続けようとしたと日番谷の元に副官の松本も戻って来た。
松本の方の各所も異常が無いらしく、日番谷はその報告にも軽く頷いた。
「…で?さっき、お前は何を言おうとしていたんだ?」
チラリと日番谷から視線を貰ったはああ。と呟く。
「……こんな事、言うのはなんですが、………王印って、行列組んでまで運ばなきゃならないものなのかなぁ。
………って、思ったものですので。」
「……。アンタねぇ。」
席官たるものの発言とは思えないの言い様に松本は溜息をついた。
「…………。」
日番谷はただ、視線をにやるだけで、黙ったままだった。
「……だって、こんな行列組んで運んでいたら、『王印はここです。』って、言ってるのと同じだと思いませんか?
大事なものならなおさら、もっと静かに人目に触れないように運んだ方が、いい気がしてならないんですけど?」
上空の神輿を見上げはそう、呟いた。
「……権威には飾りが必要だからな。」
今まで黙っていた日番谷がの意見を肯定するような発言を漏らす。
「…隊長まで、そんな事言って……怒られますよ?」
松本が溜息混じりにそう、呟いた時だった、
は微かな霊圧を感じ取り、上空の神輿を見上げていた視線を、そちらへと移した。
「…どうした??」
すぐにの様子に気付いた日番谷が問いかけてくる。
「………何か、………来ます。」
その呟きに、日番谷・松本両名もが見つめている方向へと視線をやった。
「……何?!」
日番谷もその霊圧を感じ取った次の瞬間、赤と白が混じった閃光が神輿へと突っ込んだ。
「松本!!」
「「はっ」」
日番谷の声と共に松本、の両名が隊員たちの下へ瞬歩で向かう。
森からは目立たぬようにと警護に付いたいた隊員たちが次々と瞬歩で神輿の元へと集まってくる。
「包囲!」
隊員たちに指示を与えながら、も現場へと瞬歩で戻る。
上空は混乱に満ちていた。
なんの攻撃の術を持たない一行たちはなす術も無く、逃げ惑うばかり。
そんな一行を嘲け笑うかのように、火の球は執拗に追いかる。
「うわぁぁぁぁ。」
追いかけてくる火の球から逃れようと必死に神輿の担ぎ手がのいる方へと逃げてきた。
「………。」
の呼びかけに、が淡く光りだす。
逃げてくる神輿の担ぎ手と、それを追ってくる火の球の間に割り込み、その火をで止める
衝撃で火が消し飛んだ。
その煙の中に人影を見て取れたはその人影を追う。
「待ちなさいっ!」
次の瞬間、体がもう一つの霊圧を感じ取る。
「………え?」
決して無いはずの霊圧。
「……そんな。……まさか。」
の瞳が大きく見開かれる。
違う。……そんな事はあり得ない。
そう、わかっていても、体が一向に動こうとしない。
そんなを引き戻したのは他でもない、日番谷の声だった。
「待てっ!!」
はっと、我に返り声のする方を見やると、日番谷が、一人の人影を追って行くところだった。
しかも、あの霊圧がする方へと………。
――― 離れるな。
の言葉が蘇る。
――― 氷輪丸の主と………決して、離れてはならぬ。
は弾かれたように、日番谷の後を追った。
椿(赤)の花言葉:高潔な理想。