混乱の最中、火と煙の向こうから声が、聞こえた。
ユキマチ ソウ
「待ちなさいっ!」
その凛とした声が、日番谷の耳に届く。
声のする方へ視線をやると、赤い光と化した、火球が容赦なく、担ぎ手たちを襲っていた。
その状況に日番谷は小さく舌打ちし、の声がする方へと瞬歩で向かった。
担ぎ手がいなくなり、横倒しになった神輿。
周りは火で覆われていた。
その神輿の横を火球が旋回しようとした、その刹那、
瞬歩で表れた日番谷がその火球を氷輪丸で受け止める。
すると、火球から赤い髪の女の姿が現れた。
女の持つ短刀と氷輪丸が接している部分が音を立てて凍っていく。
「……何者だ。貴様。」
その様子に女は驚いたように、目を見開くが、素早くその身を翻すと、煙の中へと姿を消した。
「待てっ!」
日番谷もその後を追う。
女の後を追い、日番谷は煙の中へと飛び込んだ。
辺りを注意深く探る。
ザワリ。と、日番谷の素肌が粟立った。
体に感じた霊圧に日番谷は目を見開く。
瞬間、腹部に鋭い痛みが走った。
ゆっくりと、痛みを感じるところへ視線をおろす。
「……っ。」
腹部に深々と刺さった刃。
その腹部に刺さった刃から逃れる為に、日番谷は後ろへ飛び下がった。
体制を整え、視線を上げる。
日番谷の視線のその奥に、ゆらり。と人影が浮かびあがった。
その人物には、白い仮面が付けられており、顔はわからない。
全身を覆う古びたマントが、風にふわりと揺れる。
そのマントの間からは死覇装が垣間見えた。
―――
死神。
だが………
「……誰だ。……お前は。」
体に感じる霊圧に、戸惑いながらもその言葉を発する。
――――
まさか。
――――
そんな事が、………
「隊長!」
刃と刃が交わる鈍い音に、その声に、日番谷は、はっと我に返った。
目の前に、瞬歩で迫った仮面の男が、と刃を交えている。
「……っ。」
「!」
の霊圧が、戸惑いに満ちている事に日番谷は気付いた。
この霊圧にも、戸惑っている事に………
「………くくくくく。」
男のその笑い声に二人は同時に顔を上げた。
「 」
の耳元に男が口を寄せ、何かを囁いた。
「…っ。」
その、囁きにが目を見開く。
「待ってるよ。」
その言葉と同時に、が、男の剣圧によって吹き飛ばされた。
「っ!!」
日番谷が声を上げる。
が、に駆け寄ろうとした日番谷目掛けて、仮面の男が斬りかかってきた。
「……くっ。」
その斬撃を受け流す。
日番谷と仮面の男の激しい打ち合いが何度となく繰り返される。
何度目かの打ち合いで、二人の刃が鈍い音を立てて合わさった。
「……懐かしいなぁ。」
仮面の男が、日番谷に顔を近づけ、呟いた。
その瞬間日番谷はその仮面へと手を伸ばす。
「顔を見せろっ!」
伸ばされた日番谷の手は仮面に触れる事無く空を切る。
その手に掴めたのは、男が着ていた古びたマント。
「待てっ!」
瞬歩でその場を去った男を、日番谷は追おうとした時、下から声が聞こえた。
「隊長!」
その声に、視線を向けると、副官である松本乱菊の姿があった。
一瞬、逡巡した日番谷。
その表情が松本が今まで見た事のない表情へと変わっていく。
その表情に松本は言葉を失う。
そして、日番谷は何も言わず瞬歩で姿を消した。
仮面の男同様に。
「隊長!!」
後を追おうとした松本を神輿の爆発がそれを阻んだ。
呆然と空を見上げる松本。
その耳には、隊士からの状況説明は耳に入っていなかった。
だから、気付いていなかった。
もう一人の隊士がいなくなっていることに。
三席のが、日番谷を追って姿を消した事に………

第三話。
ちょっと、あり得ない行動を隊長がしておりますが、
(敵を目の前に意識を他にやる)
なんてこと、日番谷隊長に限ってありえませんが、
ヒロインを絡める為にあえてそうしました。
あと、
ヒロインの事もほったらかしにしたわけではありませんよ。(汗)
福寿草の花言葉:悲しい思い出。思い出。