日番谷の霊圧を微かながらに掴んだは、
その霊圧が感じられる方へと歩みを進めていた。
その時、ふいに上空から別の霊圧を感じ取る。
歩みを止め、その霊圧をは注意深く探る。
霊圧の主がわかったは、空を見上げその霊圧の主の名を口にした。
「………黒崎君。」
ユキマチ ソウ
が下でそう呟いていた頃、
空座町上空には、死神姿と化した黒崎一護が走っていた。
自分の感覚を頼りに、違和感を感じた場所へと向かって走る一護がたどり着いたのは、とある裏山だった。
下草を踏み分け、奥へと入って行く一護。
歩いていくうちに、何か違和感を感じる場所へとたどり着く。
一護は、ゆっくりとその空間へと手を伸ばした。
すると、見た目では何もないはずの空間に指先が触れる。
「…何だコレ?」
ひた。と、その場所に手を当ててみる。
そこには、透明な壁のようなものが存在していた。
「…ったくよぉ。ウチの近くで騒ぎ起こすんじゃねぇよ。」
ガリガリと頭を掻くと、背中に背負っている斬魄刀・斬月の柄へと手をかけた。
斬月に巻かれている布が解かれ、刀身が姿を現す。
その刀身を不可視なその壁へと、二、三度、振り下ろした。
空間が四角く切り取られ、切り取られた部分がゆっくりと奥へと倒れていく。
一護は、その空いた空間から、奥へと足を踏み入れた。
空間の中へと入った一護は、その目の前に広がる風景に目を見開き、言葉を失った。
「……なっ。」
そこかしこに倒れている無数の動かない体。
死覇装の者もいれば、なにやら仮面をつけた者。
数多の者が死体と化して倒れていた。
旗の燃える音と、そのこげる匂い、
むせ返る血の匂い。
その中を一護は、警戒しつつ歩いていく。
「…ひでぇな。」
そう、呟いた次の瞬間、黒装束の男達に一護は囲まれていた。
「お前等は……隠密機動?」
一護のその問いに答える者は一人もいない。
ただ、隙のない動きで一護との間を徐々に詰めていく。
「待てよ!俺は死神代行の黒崎一護だ!」
その、一護の訴えにも耳を貸そうとしない。
それどころか、軍団員が一斉に、己の斬魄刀へと手を掛ける。
「待て!」
その緊迫した空気を一つの聞き覚えのある声が止めた。
軍団員が即座に左右に分かれ、その道を空ける。
その奥に佇んでいたの人物がゆっくりと一護へと歩み寄ってくる。
「……あんたは………。」
「二番隊隊長兼、隠密機動総司令官、砕蜂だ。……結界を………」
その鋭い視線を一護の背後へとやる。
「……張っておいたのだがな。」
結界が切られていることに、不機嫌そうに砕蜂は眉根を寄せた。
「…なにがあった?」
辺りを見回し、一護が砕蜂に説明を求める。
「何なんだよ?!コレ!!」
同様に辺りを見回した砕蜂が一つ溜息を漏らした後、一護を見る。
「……本来なら、死神代行に話すいわれはないのだがな………」
結界の中で、そんな話がされていた頃、その外では、もう一人の人物が、その場所へと向かって来ていた。
結界の中を遠巻きに伺っていたはその人物の霊圧も感じ取る。
「……この霊圧は。」
ふと、近づいて来る霊圧の主を思い浮かべる。
その霊圧に注意を払いながらもは再び視線を、結界の方へと戻した。
この近くに日番谷がいるのは、感じ取った霊圧から間違いはないはず。
結界の中には、隠密機動と、死神代行の黒崎一護。
そして、背後から近づいて来るのは………
一護も砕蜂より、経緯を聞いている頃だろう。
極めて、日番谷が不利な状況になっている事には、舌打ちをしたい気分に駆られる。
隠密機動が動き出しているという事は、王印はあの男が奪っていったのだろう。
その男を日番谷は、なんの説明もせず追いかけている。
緊急特例が発せられるかもしれない………。
いや、下手をすれば、それ以上の………
結界の中へ駆け込んで、日番谷の行動の理由を話せればいいのだが、
今のには、それはわからない。
それに今、が結界の中へと踏み込めば、捕まるのは必須。
捕まるわけには行かない。
日番谷のあの表情を見た今は……
何かを背負っているとしか思えない、あの日番谷を一人になど、しておきたくなかった。
何も言わず姿を消した日番谷。
………絶対に、理由がある。
第一、あの男の、仮面の男の霊圧は…………。
―――待ってるよ。
仮面の男の言葉が蘇る。
待っている。
つまりは、日番谷と自分の力をあの男が必要としているという事。
どうしてかは、わからないが………
は自分の手をもう一つの手で握りしめる。
これから起こることを考えると、その手をきつく握り締め、震えそうになる体を叱咤することしか出来なかった。
「………なっ!!」
一方、結界の中では、砕蜂より経緯を聞いた一護はその言葉を失う。
「そんな……うそだろ?!」
呆然と呟く一護の前で、一人の軍団員が砕蜂へと何かを耳打ちした。
それに砕蜂は軽く頷くと、一護を見やる。
「発見したら、早急に知らせろ。」
そう言うと、両手で素早くいくつかの印を結ぶ。
「…あ。ちょっ!!」
一護が呼びかけるのと同時に周りの風景が粉々に砕け散った。
結界が解かれたのだ。
それと同時に、今まで一護の目の前に広がっていた無残な風景は消え失せ、元の森へと姿を戻した。
「…黒崎?」
ガザガザと下草を踏み分け、一人の人物が一護に近づいて来る。
「石田。…お前どうして?」
「昨日からこの辺り一帯に結界が張られていたことは知っていたからな。
……それより……何があった?」
石田が鋭い視線を一護に向け、説明を求める。
「……ん。ああ……。」
砕蜂から聞いた経緯を説明しようとしたその時、空から白いものが降ってくる。
それを手を出し受け止める一護。
「…とうとう降ってきやがったか。」
そう呟く一護に対し、石田は空を見上げ
「……いや、…おそらく霊圧を消していたんだ。」
「霊圧を…消す?」
石田の言葉を繰り返した一護の耳に、ガサリと、下草を踏み分ける音が聞こえる。
一護と石田がそちらへと目をやると、そこには
日番谷冬獅郎の姿があった。
ガザリと、力なく、歩を進める日番谷。
数歩、歩みを進めた日番谷だったが、フラリ。と体が前のめりになる。
「隊長!!」
倒れる瞬間、背後から、一人の死神が姿を現した。
そして日番谷の体を支え、自分の膝へと日番谷を横たわらせた。
「くさ…か……」
僅かに身じろいだ日番谷が、苦しげな声と共に小さく呟く。
その手には、あの仮面の男のマントが握られていた。
『くさか』
その名に、は息を呑んだ。
だが反面、やはり。と言う思いもあった。
「冬獅郎?!」
倒れ込んだ日番谷を見た一護達も慌てて、駆け寄ろうとするが、は斬魄刀を抜き、
一護たちを日番谷に近づけようとはしなかった。
その切っ先が、一護の胸元を掠る。
「おわっ!!」
「さん!!」
一護と石田がそれぞれの反応を見せ、その場から1歩後ずさる。
「…近寄るな。」
自分達の知っているとは全く違うその雰囲気にその場の二人は息を呑む。
「ちょっ!落ち着けって!!!」
両手を胸の辺りまで上げ、一護たちは、戦闘意思がない事をに示すが、
の瞳からは、その厳しさは抜けない。
「さん。」
石田もを落ち着かせようと言葉を掛けようとするが、は日番谷を守るように斬魄刀を下げようとはしない。
「!!」
「…砕蜂隊長から、何を言われたの?」
その言葉に一護は一瞬驚いた様子を見せるが、の能力を思い出したのか、
どこか、納得のいった表情を見せた。
「…大体の話は確かに、砕蜂隊長から聞いてっけど、俺は冬獅郎の口から聞くまでは何も信じねぇ。」
その言葉に、の瞳から厳しさが和らいだ。
「…一方だけの言い分聞いたって、しょうがねぇだろ?……冬獅郎の言い分も聞かねぇとな。」
だろ?
その言葉に、はゆっくりと斬魄刀をおろす。
それを見た、一護は一つ息を吐くと、日番谷との傍へと歩み寄ってきた。
「怪我、してるみてぇだな。……とりあえず、俺んちに運ぶか。
……っと、。冬獅郎の斬魄刀外してくれねぇか?」
「………うん。…あの。ごめんなさい。」
日番谷から斬魄刀を外しながら、は二人に謝る。
「気にすんな。」
「そうだよ。状況はまだ、よくわからないけど、自分の所の隊長を守ろうとするのは、当然の行為だからね。」
二人がにそれぞれ言葉を掛ける。
「…ありがとう。」
がそう小さく呟き、日番谷の斬魄刀である氷輪丸をその腕に抱き寄せる。
その瞬間、の脳裏に、映像が流れ込んできた。
「…………。」
その流れ込んだ映像には息を呑み、その場に立ち尽くした。
「…?」
自分の背に日番谷を抱え、歩き出していた一護が、一向に後を付いてこないに、歩みを止め、振り向きざまに声を掛ける。
「…ああ。ご、ごめんなさい。…なんでもないの。」
そう言うと、は足早に一護に背負われている日番谷の元へと駆け寄った。
気を失っている日番谷をは、じっと見つめ今は閉じられている、翡翠の瞳を思い浮かべる。
そして、心の中で小さく呟いた。
――――
冬獅郎。
あなたがしようとしていることが今、わかった。

久々の隊長登場ですが、たった一言です。
映画どおりの展開とはいえ、文章にすると長いですね。
さて、このあたりからオリジナル要素を含みだしました。
そして、ようやく動き出します。
と、いっても次は、あのシーンになるので、隊長もヒロインも全くでないんですが……