尸魂界
一番隊・隊舎の扉が重々しい音と共にゆっくりと閉ざされていく。
完全に閉ざされた一番隊隊舎の扉。
今、まさに、隊首会議が開かれようとしている
その為に………
ユキマチ ソウ
一番隊隊舎・隊首会議場
薄暗いその隊首会議場内には、一番隊隊長ならびに護廷十三隊総隊長である山本元柳斎重國の前に各隊長が居並んでいた。
偶数・奇数に分かれて立ち並ぶその隊長列の中に今、日番谷の姿はない。
本来、日番谷が立つべき場所には、不自然な空間だけがあった。
「周辺はくまなく捜索いたしましたが、王印の痕跡は発見できず。……やはり襲撃者が持ち去ったものと思われます。」
立ち並ぶ隊長列から少し前に出た砕蜂が現状報告を行なっている。
その隊長列のはるか後方には、片膝を付き、視線を落とした十番隊・副隊長松本乱菊が控えていた。
ただ、黙って砕蜂の現状報告を聞いている。
その松本の心に渦巻いているもの。
日番谷のあの表情。
後になって気付いた、の失踪。
二人の近くにいた。
でもそれは、『つもり』だったのかと………。
その近くて遠い二人の存在に歯軋りしたい気分にかれれる。
―――
あんた死神になりなさい。
遠い昔、二人に言った言葉。
あれは、間違いだったのか?
自問自答を繰り返す松本の耳に、砕蜂の言葉が入ってくる。
「なお、対象を追跡したとの報告を受けている護衛責任者・日番谷十番隊長及び三席ですが、
自ら霊圧を封じた痕跡が残されておりました。」
その報告に、松本が顔を上げ、慌てて立ち上がる。
「お待ち下さい!日番谷隊長とが任務を放棄したかの様な発言は……!」
「では、何故二人はそのような事をする?」
松本の言葉を遮り、砕蜂が問いかける。
「……それは。」
砕蜂の問いかけに、何も言えず唇を噛み締める。
「これは明確な法規違反だ!」
「しかし、私はっ………!!」
なおも言い立てようとする松本を元柳斎の一喝がそれを遮った。
「やめいっ!」
その声に、松本は再び膝を付き顔を伏せた。
「十番隊には全員蟄居(ちっきょ)を申し付ける。…場合によっては廃絶も覚悟せよ。」
元柳斎の言葉に、松本は思わず立ち上がった。
「廃絶?!…十番隊そのものが取り潰しになると言うのですか?!」
その松本の問いかけに 元柳斎は答えない。
「隊士たちに落ち度はありません!責任なら全て副隊長のこの私に……!」
「口を慎めぃ。松本!」
静かながらも、強い口調のその言葉に、松本はビクリ。と体を震わす。
「副隊長の命一つで責任が取れる事態と思うか。…分際をわきまえよ。」
「………はい。」
崩れるよな形で松本は再びその場に膝を付き、深く頭を垂れた。
「今は王印を探し出し、回収すると同時に、
事件の主要関係者と目される十番隊隊長・日番谷冬獅郎並びに同三席の身柄確保を最優先とする。」
元柳斎の声が隊首会議場に響く。
「これは緊急特例である。」
十番隊隊舎。
各隊舎の一階には、隊ごとの集会のため、隊士が全員整列できる広さの土間がしつらえてある。
数時間前、ここで日番谷の説明を受けた場所。
今、またそこに松本乱菊を始めとした隊士全員が集められていた。
一同と対峙しているのは一番隊副隊長・雀部長次郎と、一番隊隊士。
「これより、十番隊には当分の間、隊舎内での謹慎を申し付ける。
なお、日番谷十番隊隊長並びに同三席、の身柄拘束、
及び事件の解決までは内通者が存在する恐れも在るゆえ、全員の斬魄刀を没収する。」
その言葉に集まっていた十番隊隊士が一斉にざわめきだした。
「そんな…。…何故ですか?!」
「我々を疑うのか?!」
「解決するまでここで大人しく待てというのですか?」
「我々にも潔白を証明する機会を……!」
前に出て行こうとする隊士たちを松本が手でそれを制する。
その様子を、事態を聞きつけた阿散井恋次と朽木ルキアが顔を見合わせ見つめていた。
なおも異議を申し立てている隊士たちを前に松本は一つ息を吐くと、己の腰紐から斬魄刀を引き抜く。
それを見た一番隊士の一人が松本へと駆け寄る。
「失礼します。」
その言葉と同時に、その隊士の手に松本の斬魄刀がカシャリ。と言う音と共に乗せられる。
「副隊長。」
その様子に異議を申し立てていた隊士たちが一瞬にして静まりかえった。
「………と、いうところかな?」
一番隊隊士二人に見張られながら、
壁に背を預け次々に斬魄刀を回収されていく様子を見ながら、松本は阿散井恋次と朽木ルキアに経緯を話した。
「そんな。……それではまだ、何もわかっていないではないですか。」
「それだけ、奪われた王印は大切なもの、って事ね。」
納得がいかないと声を上げるルキアに対し、乱菊は力なく微笑んだ。
「きっと、日番谷隊長ももすぐ戻って来ます!」
真摯な瞳で乱菊を見つめ恋次が言う。
「………そうね。
………まったく。どうしてみんな、何も言わずにいなくなるのかしら?」
腕を組み、力なく呟いた乱菊の言葉に二人は顔を見合わせる。
「日番谷隊長とは市丸とは違います!!」
「…っ。恋次。」
恋次のその物言いに、ルキアが思わず小声で静止を促す。
そんな二人に乱菊は、ほんの少しだが、微笑を見せた。
「……唯一の救いって言うか。……が隊長と一緒に行動してくれていればいいんだけど………。」
その呟きは、二人には乱菊の祈りにも聞こえた。
そう、本当に何もわかっていない。
わかっているのは王印が奪われたのだという事実のみ。
日番谷が姿を消した理由も、が姿を消した理由も何もわかっていない。
そう、二人が行動を共にしているのかさえ……
誰も分からないのだ。
「斬魄刀の徴収終了いたしました。これより保管庫へ移動します。」
一番隊隊士の報告に雀部長が頷く。
「…うむ。各自、身を慎み処分を待つように。」
その声に三人は土間の中央へと視線をやる。
「隊舎門は閉鎖いたします。松本副隊長は自室へお戻り下さい。…阿散井副隊長お時間です。」
一人の一番隊隊士が恋次に退室を告げに駆け寄ってきた。
「…わかった。今行く。……行くぞ。」
恋次はその呼びかけに答えると、乱菊に軽く会釈しルキアにも退室を促した。
ルキアもそれに従い乱菊に会釈する。
「…待って!」
立ち去ろうとした恋次の腕を乱菊が掴み引き止めた。
「一つ、調べて欲しいことがあるの。」
その小さく囁かれた言葉。
その瞳に二人は目を瞠る。
退室した二人。
思い出される乱菊の言葉。
―――
隊長が追いかけていったその男だけど……わたしも隊長と関係があると思う。
でなきゃ、隊長があんな………。
振り返るとゆっくりと閉ざされていく隊舎門。
乱菊を見つめる恋次とルキア。
全てを二人に託した乱菊。
そして、完全に十番隊舎の扉は閉ざされた。

「氷原に死す」のワンシーン。
チョコと入れてしまいました。
いや、映画を観て思っていたんですが、
本当に苦しそうな表情をされていたものですので……
乱菊さんもきっと辛かったんだろうなぁ。
隊長を待っている間、きっと葛藤されてたのでは?
と思い、入れさせて頂きました。
花菖蒲の花言葉:信頼・あなたを信じます。