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声が、聞こえる
その声の在り処を見つけることが、力の扱いを知るという事。
それが「死神になる」という事。
自分の霊圧の強さを知らされたあの時から、覚悟を決めた。
在り処を求めて、進むと決めた。
ユキマチ ソウ
真央霊術院。
いつもは、己の技を磨く為、どこか張り詰めた空気が漂っているこの場所も
休憩時間とあって、その張り詰めた空気は感じられなかった。
それは成績優秀者が揃う一組も同じで、教室内は仲のいい友人達と談笑する生徒達の姿がそこにはあった。
だが、日番谷だけは、一人で窓際の席に座り、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
流魂街にいた頃は、自分を怖がる者ばかりだった。
怖がらず、自分と接してくれたのは、自分を育ててくれた祖母と、先にこの学院に入学した幼馴染だけ。
この学校に入れば何かが変わるかもしれないと、心のどこかで思っていた。
自分と同じ霊力を持つ者の集まり。
その中に入れば、自分も同じになると考えなかったと言えば嘘になる。
現に、怖がられることはなかった。
だが、日番谷はここでも孤独を強いられた。
全てにおいて秀でていたが為に………
飛び級を重ねれば重ねるほど、日番谷は孤独になっていった。
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人と違うと孤独になる。
そんな事をこの学院に入って日番谷は、改めて思い知らされる。
そんなある年、
いつものように休み時間、窓の外をぼんやりと眺めていた日番谷に声を掛けてくる者がいた。
「君が噂の天才児。日番谷冬獅郎かい?」
「……なんだよ。」
噂の天才児。
その言葉に眉根を寄せながら、頬杖を外しそちらへと視線を戻す。
視線の先にいたのは、紫紺の髪とすみれ色の瞳を持った、
日番谷よりも頭二つ分ほど背の高い男がそこには立っていた。
そして、その後に続いた言葉と共に差し出された手に日番谷はその翡翠の瞳を見開いた。
ただ、人懐っこそうな微笑と共に差し出されたその手に、戸惑ったのを覚えている。
それから日番谷は、いつもその男と競い合うようになった。
木刀での模擬試合。
周りではレベルの高い二人の模擬試合を見てクラスメイトが騒ぐ。
月一度の成績優秀者の発表。
その【一】の下には日番谷冬獅郎の名が。
次いで【二】の下には必ずその男の名があった。
「すごいよ冬獅郎。やっぱりお前は天才だ!」
その度に、自分のことのように喜び微笑まれた。
「そんなのかんけーねぇ。」
事も無げに日番谷は答える。
「でも、次は負けないぞ!」
そう告げる男に、日番谷は苦笑を浮かべる。
それでも、この学院で「友人」と呼べる者が出来たことが嬉しかった。
どんな時でも二人で行動する事が多くなった。
人口虚を使っての演習。
成績優秀者が揃う一組の中でも日番谷と共に、その男は先頭を切って人口虚を倒していく。
二人について来れるものは無かった。
「…冬獅郎。俺たちずーっと友達でいような。」
そう言って、笑い合ったのはいつが最後だったか…………。
声を限りにその名を呼ぶ。
「 」
体を刑軍に押さえられながらも、日番谷はその隙間から手を伸ばす。
だが、その手は届かない。
声を限りにその名を呼ぶ。
「 」
男が日番谷を見て、何かを呟く。
止めとばかりに刑軍の一人が、その男の体を斬りつけた。
男の体から、血しぶきがあがった。
はっ、とその瞳が開かれる。
何度か瞬きをすると視界がはっきりとしてきた。
「隊長!」
その聞き覚えのある声にゆっくりと視線を巡らせる。
「……?」
かすれた声が、その人物の名を呼んだ。
「…よかった。」
の瞳に安堵の色が浮かぶ。
「…こ、…こ、は………。」
暗い室内を見渡しながらその体を起こそうとする日番谷。
それを見たは慌てて手を貸し、その体に負担が掛からないよう起こす。
どこか、見覚えのある室内。
「俺んちの俺の部屋だ。……気がついたのか?」
先程の日番谷の質問の答えが返って来る。
その方向へ視線をやると、ドア近くに黒崎一護が立っていた。
「…どうして………。」
「…こっちでくたばってるお前をほっとく訳にいかねぇだろ?」
日番谷の質問に答えながら、一護が部屋へと入って来た。
「……まぁ。ちょっとばかり、凄まれちまったけどな。」
ちらり。と一護がを見る。
視線に気付いたは申し訳なさそうに苦笑を浮かべた。
「…そうか。…すまなかった。」
日番谷は、その視線を少し落とした。
「…………。」
暗闇のなかでもわかる、日番谷の青白い顔色。
―――
あれだけの出血してりゃ、顔色も悪くなるわな。
そんな事を思いながらも、今、起きている事態について日番谷に説明を求める。
「…隠密機動がお前達の事、探してたぜ?」
「……ああ。」
「…ああ。って、それだけかよ?」
自身の椅子に腰を掛ける。
その様子をちらりと横目で日番谷は見ただけで、それ以上を語ろうとしない。
「…お前なんで隠れてるんだ?」
「………。」
日番谷は、黙ったまま、何も言わない。
「…その傷、誰にやられた?」
「…………。」
日番谷は、やはり答えない。
ただ、自身の組んだ手を眺めているだけ。
「何とか言えよ!」
「…黒崎くん。」
思わず声を荒げた一護を、が制する。
「…あっと、わりぃ。」
ちらり、と日番谷の視線が一護へ向けられる。
「………お前には関係ない。」
「っんだと?!」
日番谷の物言いに、一護は怒りで拳を震わせた。
「…取り返す。」
「ああ?」
静かに呟かれた日番谷の言葉に一護が聞き返す。
「奪われたのは王族の宝。王印だ。……お前のような死神代行が関われる話じゃねぇ。」
ねめる様に視線を一護へと送る。
「……!っんとにかわいげのねぇヤローだなぁ。お前は!!」
怒りに震えながら、立ち上がる一護。
そんな一護に、日番谷は、ふん。と顔を去逸らせる。
「だいたい、お前はなぁ!「隊長!!」」
「………っ。」
いち早く、日番谷の様子に気付いたが、一護の言葉を遮り日番谷へと駆け寄ってきた。
「…おい。大丈夫かよ?」
一護も日番谷の苦痛に歪む顔を見て、心配そうに声を掛ける。
「…ああ。たいした事はない。……すまないが、もう少し休ませてくれないか。」
そう言うと、日番谷はそのベットへと横になった。
と一護には、背を向けた形で………。
その姿が、には、全てを拒絶しているように見えて仕方がなかった。
「……………。」
ガシガシと頭を掻き、溜息をつく一護。
「……ったく、朝になったら、井上呼んでやっから、それまで大人しく寝てろよ!
!お前もちゃんと、冬獅郎が無茶しねぇーように見張ってろ!」
そう、言い放つと一護は自身の部屋を出て行った。
どうやら、今日は部屋を日番谷に貸してくれるようだ。
それに、隠密機動にも連絡を取らずにいてくれるらしい。
その事に人知れずは、ほっ。と、安堵の息を吐く。
しん。と静まりかえった室内。
視線を日番谷の背中へと落とす。
「……っ。……っく。」
苦痛に顔を歪めながらもその痛みに耐える日番谷。
「……隊長。」
が呼びかける。
だが、その呼びかけに日番谷は答えない。
背中を丸め、こちらを……向かない。
全てを、拒絶しているように………
「隊長」
その呼び名を、拒絶するかのごとく…………